※ホワイトデー
朝っぱらから、死にそうになりながら全力疾走。回りの目がないくらいにはみんな席についてしまっているらしい。
遅刻ぎりぎりセーフ!
なんとか教室に滑り込んで勢いよく着席。
「…」
着席と同時に、何故か頭上から大量のなにかが降ってきた。
コツンコツンと頭の上で跳ねてから床に落ちていった。地味に痛い。
何が起こったのか理解できなくて一瞬固まる。
ゆっくりゆっくり後ろを振り向いた。
「なんやねん」
「何すんじゃ財前」
器を割ったみたいな手をしたままだ。
犯人はこいつだ。
何見とんねん。
あーあー、申しわけありませんね。イケメンは何しても許されるってか。不細工はこっち見んなってか。腹立つ。
床を見れば、先刻カンカンコンコン頭に降ってきたのは、どうやら袋入りのあめ玉らしい。
「それ、やる」
「は?」
「ありがたく受け取りや」
はたと気づく。
そういえば今日はホワイトデーじゃないか。2月に寝不足になるくらいに努力して財前にチョコレートケーキなんてものをあげた。
もしかして、もしかするんじゃないですか?
あのツンツンの財前が、2月のお返しなんて。
私だって女の子の端くれだ、喜ぶに決まってる。
わくわくしながら、試しにひとつ拾ってみる。
真っ黒なパッケージに看板みたいにバーンと商品名。某梅干飴だ。…。
「責任持って全部食いや」
期待して損した!
財前はどこまでも財前だった!色気もくそもない!何より私はチェルシー派だ!
憤慨しながら財前に抗議しようとするも、邪魔やから早よ拾え、なんて命じられたコトを遂行してしまうあたり、さも当然のようで、飼い慣らされているような気がしてならない。
椅子に座りっぱなしではどうしても届かなくてしゃがみ込む。
散らばる飴を拾いながらカーディガンのポケットにいれていく。…ぱんぱんになった。
最後のひとつを拾う。
かつーん。
「いたっ!」
頭のど真ん中にひとつ衝撃。
さっきのばらばらと同じくらいの軽さだけれど、思わず声が出た。
頭に当たってころころと方向を変えたそれを追って、しゃがんだまま向きを変える。
財前の上履きを横目に見ながら、それを掴む。
反射的に掴んでから、違和感を感じてそっと手を開いた。
「ざ、財前…!」
「なんやねんその顔」
ブッサー、とか笑われたような気がしましたが関係ありません!
手のなかに収まっていたのは、さっきまで拾っていた黒いパッケージではなく、小さな花モチーフがばらばら飛んでいる明るい色のパッケージ。それが好きで、いつも一番になくなる。
ピンクのパッケージがしっかり手のひらに乗っていた。
たまたま?
財前はチェルシーは甘過ぎると言って買わないし、あげても食べない。
財前に飴ちゃんあげそうな先輩ももっと体に良さそうだったり、ちっさくていっぱい入ってるのだったりを押し付けてるからチェルシーなんて買わない。
いっつもピンクのチェルシーがなるなくのはテニス部が終わるのを待っている間で、それをぼやく相手は財前しかいない。
覚えててくれたんだ。
カーディガンのポケットをぱんぱんにしている梅干飴をどうしようと考える前にピンクパッケージのチェルシーをぱくりと食べた。
あげるよ、
大遅刻part2
- 55 -
[*前] | [次#]