キセリョファンクラブ会員ルールその15

プレゼントは何人であっても事務所を通すコト



こんなルールでも、かのキセリョが「ルール守って応援してくれるファンだって信じてるッス!」とか一言発すれば万事オッケー。
日常の簡単な差し入れは除外対象であるようだが、誕生日やクリスマスなど特別な日のプレゼント攻撃はあの人気からは想像ができないくらいに少ない。

日付指定なんてコトはせず、定形外の郵便物を発送した。
日持ちするものを選んだ。喜んで飽きて、もう一回喜んで飽々して、最後の一踏ん張りくらいまで保つようなヤツ。我ながらいい選択をした。
集荷される様子を見て、満足をした。






学校につくと、思わず口呼吸したくなるような甘い匂い。
甘いものは好きだが、やり過ぎである!
休み時間毎に芳香剤臭いトイレに逃げ込んだ。








「名前!」

お弁当を少なくして友チョコを食べて消化した後は、少し空気がすっきりしているように感じた。
いつの間にか放課後。先生に頼まれていた仕事を片付けて少し遅めの帰路につこうとした時だ。
目の前から涼太がご自慢の長い足で歩いてきた。
いくら少ないとはいえ、ファンクラブルールを知らない女子生徒からのアプローチはあっただろう。
お疲れさまと声をかけようと思ったが、何故か疲れよりも不機嫌丸出しの表情にビビる。
そういえば、心なしか歩き方も荒々しい。ずんずんずん、なんて。
あっという間に距離が詰まっていた。

「ど、どうしたの涼太」
「ねぇ、どういうコト」
「は?」

質問を質問で返された!
目の前で見上げるその顔は確実に不機嫌。眉の間にしっかり縦線が入っている。
今日一日の行動を振り返ってみる。…特に不審の点はない。
わかりません、と涼太を見上げると片手を取られて、手を突っ込んでいたポケットから何かを出して乗せてきた。
あれ、この形、この色。

「なにこれ」
「涼太へのバレンタインチョコじゃん」

先日郵送したはずのチョコレートだ。
よかった、しっかり届いていたようだ。
一人満足しているとまた不機嫌そうな声で呼ばれる。

「なに」
「これ、どういうコトって聞いてるんだけど」
「いや、バレンタインのチョコだって」
「それは見りゃ分かる!」
「じゃあ何!」
「なんで事務所に送ってきたんスか!」

ぷりぷりと怒る涼太の手が捕らえたままの私の手首に力を込める。
多分、無意識気づいてない。
なんで事務所に送ったかって?そりゃ、

「ルールじゃん、キセリョの」

それに則ったまでデスヨ。
涼太は、ムッとしたように箱ごと手をこちらに押し付けてきた。
返却?やだ、ちょっと奮発して高いの買っちゃったんだから。自分で食べるなんて寂しすぎる。
それよりも、今ここで開ければ、ひとつくらい涼太が食べてくれるだろう。
箱を開けようとすると違う!と思いきり怒られた。
じゃあ何!

「ちゃんと渡してよ」
「は?だからちゃんと事務所に」
「そーじゃなくて!」

直接渡してって言ってるんスよ。

「…ルールを守るファンが好きなキセリョでしょ」
「…アンタ、自分のコトなんだと思ってんの」
「キセリョファン」
「彼女だろ!」

えぇそうですよ。アンタの彼女は極度のキセリョファンですよ。
だから、キセリョが好きなルール守ったファンやってるんじゃん。

「フツー彼女は別扱いッスよ」
「私フツーじゃないから」
「 彼 女 は 特 別 ッ ス 」

ちょっと考えりゃ分かるっしょ。なんで彼女からのチョコを事務所の人が最初に見て手にとって仕分けるんスか。てか、他の子のなんて食うかどうかもわからないのになにこのチョイス。もっと女子力高いヤツで彼氏をときめかせるとかなんかないんスか。日付指定なしの郵送とか、気抜きすぎ。要冷蔵とかのチョコ買ってこいよ。

「…ハイ」

マシンガンのようなスピードで罵倒されさすがにしょんぼり反省。
涼太は、はぁ、とひとつ大きな溜め息。

「オレは知らないヤツからチョコもらうのはイヤ」

アンタ誰ってなるし、好きでもないヤツに好意を寄せるとかない。けど、

「好きな子からのプレゼントは死ぬほど嬉しい」

ありがとうって言いたいし、オレのために何選んでくれたのかだって話したい。

「だから、変なプライドとか捨ててよ。オレはアンタを手離す気なんてないッスよ」

アンタが好きなのは、キセリョじゃなくて黄瀬涼太だろ?
多分、いつもどこかで不安で。いつか特別じゃなくなっちゃった時のショックをなくす為にキセリョファンだったんだと思う。
ファンだったらみんな同じだけ微笑んでもらえて同じだけ無関心。
傷付く訳がない。そう思ってたんだきっと。

「これ…、受け取ってもらえますか」

今度はきちんと直接。
戻ってきたばかりの箱を涼太に差し出す。
今までこんな経験がないもんだから、気恥ずかしくなってうつむいたままでいると、強制的に視線を合わせるようにされた。
涼太は至極、

「もちろん」

嬉しそうだった。





モデルの彼のルール








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