上履きからローファーに履き替えて外に出ると、もう空は真っ暗だった。

やっちゃったなぁ。

授業もHRも終わってのんびり帰り支度をしていたのが悪かった。
教室を覗いた先生に荷物運びと雑用を押し付けられるとは。
はふ、とひとつため息を吐いた。

時計を見る。まだ彼は部活中だ。
待っているには少し長くて、諦めて帰るコトにした。
今日は部活が長引くから明るいうちに帰れと言われたんだった。





大通りのお陰で、街灯が立ち並び、暗いとは感じない。
いつもはお喋りしながらだったり、寄り道したり。
あっという間の道のりなはずなのに、どうしてだか今日は飽きるくらい長く感じた。
思ったように軽快に歩けない。
いけない、いけない。ぼんやりとした思考を飛ばすように頭を振って、道を左に曲がった。ほんの少しだけ近道なのだ。
大通りから一本入ったからか、一気に回りは暗くなって視界が悪い。
寿命が尽きそうな街灯が目に痛い。

「あ、」

ちかちかする街灯から目を背けた先に猫がいた。
よく彼と近道をする時に見かける猫。
巷で噂のツンデレ気質、手を差し出しても撫でさせてくれるコトは稀な可愛い子。
人が嫌いな訳じゃないようで、ゆっくり近づいても逃げない。

そーっと手を差し出す。
すんすん、と私の指先を確かめるみたいに鼻とひげが動いて、ぐりり、と頭を擦り付けてきた。
この辺りで暮らしている野良らしいが、野良の割りに毛並みがよく、細い毛が気持ちいい。

「見て!忍足く、」

そこまで言って、あ、と我に帰った。
いつも隣にいるはずの忍足くんが今日はいない。
いつも一緒にお喋りして、猫に手を伸ばす忍足くんがいない。
すとん、と興奮が冷めていくのが分かった。
猫がぐりぐりと頭を手に押し付けてくる。

優しいねお前は。
きっと私が一人ぼっちだったから励ましてくれたんだね。

押し付けられた頭から手をずらして顎の下を擽ると、気持ちよさそうに、ぬー、っと伸びをした。




「とうとう撫でさせてくれるようになったんやな」



しばらく猫を撫でていると、突然背後から声がした。
ぱっ、と猫が瞼をあげて、なんだ、と言わんばかりにまたすぐ目を細めた。

「お、したりくん…?」
「明るいうちに帰りー、て言うたやろ?」

しゃがみこむ私の隣に腰を下ろして同じように猫に手を伸ばすのは、制服を着た忍足くん。
まさかの人の登場で思わず撫でていた手を休めてしまっていたからか、猫は今度は忍足くんの指先を確かめてからすり、と自分を擦り付けた。

「こんな暗いとこで。危ないやろ」

猫に気ぃ取られとるし。
猫を撫でながらそんな言葉。
時計を確認すると、学校を出てからかなり時間が経っていた。

「何かあってからじゃ困るしな」

先生に雑用をさせられてだとか、どうしてもいつも通りに歩けなくてだとか、さっきまでのコトは一切言えずにただ謝罪の言葉だけをのべる。

ごめんなさい。

そういうと、こっちをちらっと見て、忍足くんはいつもみたいに優しく笑った。

「でもまぁ、」

長い人差し指が猫の鼻先からつつつ、と額を撫で上げた。

「こいつが折角引き留めといてくれたんや」

猫から手を離すと、逆の手を伸ばしてくる。


「一緒に帰ろ」


思わずその手を取る。
さっきまでのもやもやは、ない。

もう撫でてくれないと分かったのか猫は一度だけ振り替えって、なー、と鳴き暗闇に消えていった。





一人ぼっちはさびしいね、











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