「のぅ、名前ちゃん」
ビックゥ!と体が跳ねた。ジャーキング!
一番後ろ、お隣さんは窓の私の席。
の少し後ろ、椅子と壁に挟まるように体育座りの仁王くんがいた。ナニコレ、ホラー。
仁王くんはそんな私を見て、楽しそうに笑った。
笑い事じゃあない。
「今日はなんの用だい、仁王くん」
「英語の教科書忘れちゃったなり」
貸してくんしゃい。
ちょいちょいと緩慢に指先を動かして催促される。
呆れながら机の中の教科書を渡す。
ありがとさん。
それだけ言うと、仁王くんはどこからともなく茶色のウィッグを出して、さっさと隣のクラスの田中くんに化けて教室を去っていった。
隣の隣のクラスの山田くんを見つけた。
丁度いい。
「仁王くん、これ真田くんに渡しておいてよ」
ついついっ、と制服の裾を引っ張る。
近くを歩いていた隣の隣のクラスの子たちは、こいつ何言ってんだの表情。
山田くんは、
「ん。分かったなり」
ほら、仁王くん。
今度は山田くんの格好をした仁王くんを見て、みんながぎょっとする。
そんな中からさっさと抜け出すと、どこかに紛れるように仁王くんは消えた。
多分、A組の柳生くんにでもなったんじゃないだろうか。
「のぅ、名前ちゃん」
仁王くんはなぜだか私になついているらしい。
手なづけた覚えはない。
隣のクラスの田中くんが、隣の隣のクラスの山田くんが、はたまた隣の席の真山くんが、ときたまトコトコ後ろからついて来るのだ。
振り替えって、仁王くん、と声をかければ、嬉しそうにひとつ鳴いて横にやってくる。
仁王くんは変わった子だ。
双子の見分け方(分かってくれるのは、柳生と名前ちゃんくらい。)
- 43 -
[*前] | [次#]