影が落ちているからか、視界はうす暗くて、だけどあまり嫌な感じはない。
それは、

「どきどきする?」

目の前の忍足がにこにこしているからだ。



少女漫画が好きな私。恋愛小説が好きな忍足。
どっちもどっちな趣味をしているから、互いに口を出したり、嫌悪感を示すコトはなかった。
ただポロリと、「壁どんっていいね」なんて呟いてみたら、やったるよ、と壁際に追い込まれた。

「どや?」
「うーん…」

思った以上に距離があるんだなと思った。
リーチが長いからか、顔の横に置かれた手から、忍足までの距離が遠い。
もう少し威圧感があるのかなと思っていたのだけれど。
きっと、危機感が足りないんだろうなぁと頭の中で考えた。
もっとこう逼迫した状況の壁どんはきっとそりゃあもう怖いに違いない。
ほら、怒った表情なんかで追い詰められたら、心臓も止まる興奮だ。

だけど、忍足を嫉妬させようだとか、怒らせようだとかは、なんだか無縁である。
他人にたいしてとっても淡白なこの男の怒りの沸点は見えないくらい。
興味がなさすぎてなさすぎてなさすぎて。
きっと、嫉妬に狂った忍足に囲いこまれるコトはないんだろう。
距離感がなんだか恨めしい。

「もっとね、」
「ん?」

そっと腕を伸ばして、筋肉のついた腹から脇腹、背に巻き付けた。
きゅっと力をいれて、しがみつく。

「もっとずっと近い方がいいかな」

壁から背中を離して、ゼロ距離。
クツクツと喉で笑う忍足が頭を撫でてくれる。
きっとこっちの方がいい。





追い詰める(のはどっちだ。)









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