よく笑ってくれる。

それだけが彼女の私の特権だ。
それだけで十分だ。
この人が喜んでくれるなら、雅治が楽しそうで嬉しそうならそれでいいのだ。



待ち合わせの場所にいくと、モニュメントからほんの少し離れたところに雅治はいた。
いつもの無表情で、じっとショーウィンドウの中を覗いている。
声をかけずに近づく。
こうしてなにかに夢中な彼には私の接近なんて分からないにちがいない。
彼の肩越しに、そっと中を覗く。
あぁ、そういえばこの間雑誌にこんなのが載っていたっけ。
そんなに欲しかったのか。
背伸びを止めて、雅治の背中を叩く。

「お待たせ」
「ん、全然待ってないぜよ」

すっ、と自然に出された手を握る。
今日は買い物に付き合ってもらう予定なのだ。







時間通りに俺が待ち合わせにくるなんて、本当はありえないコトだなんて彼女は知らない。
可哀想でとっても可愛い俺のカノジョ。
頭の中でしっかり笑った。
ショーウィンドウ、俺の肩越しに彼女が中を覗くのを確認。
どうやら前に置いていった雑誌を思い出したようだ。
夢中なフリ、彼女の存在に気付かないフリをする。
トントン、と肩を叩かれる。
振り向くと、さも「今来ました」なんて顔。
そっと手を差し出して捕縛した。










「今日はありがとう」
「いんや、別に」

私は心の中でニヤニヤと笑った。
彼は知らない。
こっそりこっそりコトを進めた。
雅治と離れた一瞬を使って、彼の覗いていたショーウィンドウのお目当ての品をゲット。
綺麗に包装までしてもらって何食わぬ顔で戻ってきた。
彼は驚くだろう、喜んでくれるに違いない。
大丈夫、私しか彼を喜ばせられる人間はいないのだ。

「これ、今日付き合ってくれたお礼」
「ぴよ?」

その綺麗な包みを差し出すと、不思議そうにそれを受け取って、丁寧に開けていく。
ゆっくりゆっくり、私の方がわくわくしてしまうくらいゆっくりそれを開ける。

「…っ!これ…っ!」
「雅治に似合うかなって」
「…っ、ありがとさん」

ぱぁっ、と文字通り花が咲くように笑顔をになる。
そう、彼をこんなに喜ばせられるのは私だけだ。









ちょろい。
遠くの方で急いでショーウィンドウの店に向かう彼女を目の端で捕らえる。
頼んだなり〜、そんな気分。
少し手間はかかったが、この程度なら問題ない。
欲しいものも手にいれて、さらに馬鹿を見るのはすこぶる楽しい。
止められんなぁ、なんて喉の奥で笑った。
お礼、なんて差し出されたものは案の定。(まぁこれ以外だったら返品しようと思っていた。)
嬉しさを繕って彼女に向き合う。
それは傲慢にも満足感たっぷりの顔だった。
まだ遊べる。





最大級の笑顔で(そのうちバイバイ)










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