目に見えないものは信じないし、気にもしないのがモットーで。
「なぁ、なんか憑いてるけど」
「どうでもいいよ」
「なんかすっげぇ憑いてるんだけど」
「見えないし、分からないかな」
「なんかすっげぇ仁王が憑いてるんだけど」
「目に見えてないから全く興味がないかな」
ブン太がものすごく気味悪そうにこちらを、正確には私の後ろを見ている。
目に見えない、視界にないものは興味がないのだ。
だから、今ブン太がものすごい顔をして、うなじになにかを押し当てられたような気がするけど、それも気のせいだし、多分風。ということにしている。
「なぁ、」
「なぁに」
「お前さ、その…浮気されてるって分かってる?」
「浮気?」
「仁王がさ…」
「仁王には彼女がいるじゃない」
ブン太が言いたい「浮気されてる」は、「浮気相手にされてる」のコトなんだろうけど。
目に見えないものと浮気なんか出来ないし、する気もない。
にゅっ、と後ろから腕が出てきてお腹の前でクロスするもんだから、思いっきりそれを叩き落とした。
「ぴよぉ、痛いなり」
ゆっくりゆっくりと後ろを向けば、へらへらと仁王が笑っていた。
「そういうのは彼女にしてあげなさい」
それだけ言ってまたブン太の方を向いた。
ぺたり、と背中になにか手のひらのようなものが張り付いた感覚はある。
きっとそれも気のせい。
「…なぁ、」
「なぁに」
そういえば、最近はとても前向きになった気がする。
言葉って素敵で、語弊がありまくる表現だ。
なるべく後ろを、背後を見ないようにしているだけなのだ。
「仁王がめっちゃ張り付いてる」
「見えないなぁ」
最近はとても前向きだ。
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