「名前ちゃーん、あっそびましょー」
お隣のお家の雅治くんはいつまで経っても頭が小学生のまんまのようです。
私はトイレの花子ちゃんじゃないっつーの。(ちなみに「さん」付けはごめんなさい10回。)
「いやだ」
「返事が違う」
「黙れい」
「いけずう、」
ひょこひょこと後ろからついてきている気配がある。
これなら今日も私はミッションクリア。
馬鹿息子を家まで送り届けてください、なんて仁王一家総出でうちに頼みにきたのが懐かしい。
無理矢理にお辞儀をさせられていたイケメン雅治くんは、大層残念な頭の持ち主であるから?仕方のないコトなのだ。
雅治のお守りを頼まれる前日、「チョウチョ追いかけたら知らん場所におった」なんて捜索願い一歩手前を引き起こしたのがこいつ。
真冬にチョウチョなんている訳ねーだろ!お隣さんの窓の向こうから、仁王姉の怒鳴り声が聞こえて私までびくついた程だった。
要は、この、顔面だけいい男は、馬鹿も馬鹿、頭のネジがゆるっゆるでそこら中に落として回ってしまった訳だ。
中3にもなってだ、中3にもなって、前を歩く人の靴の踵をなんとか踏もうと奮闘しているやつが、これまでにいただろうか。
リズム感がないからか、タイミングを逃しすぎる。
全く 踏めない踵にヤキモキしている様子が背中から伝わった。
「なぁ名前」
「なぁに」
「影踏みしよ」
どうやら私の踵を踏むコトを諦めたらしい。
いや、飽きたの方が正しいだろうか。
ぴょこっと視線を合わせてくるもんだから深く深くため息をついてやった。
「雅治。夜だよ」
「知っとる」
ただでさえ人通りの少ない節電対象の道路である。
荷物持ちゲームがやりにくそうな一本道には当たり前のように影なんてうっすらとしか出ていない。
「影出来ないよ」
「…」
「ねぇ、まさは、」
「じゃんけんぽん」
反射的に出した手はグー。
パーを出した雅治に負けた。
「お前さんが鬼じゃよ!」
けらけらと笑いながら小走りを始めた雅治を見やる。
深いため息。
肩に担いだスクールバッグが重い。
走る気がないからそのままのたのた歩くと「早よ来んかぁ」と間の抜けた声。
一回は構ってやらないときっと雅治は拗ねる。
街灯の真ん中から外れたところに立つ雅治からうっすら伸びる白い影を踏みつけてやった。
「はい踏ん、」
いや待て。なんだこれ。
薄ら暗いアスファルトに白い人影。
ちらちらと尻尾が揺れる、これは雅治の影だ。
だけど、
「あーあ、踏まれちゃったなり」
けらっと笑う笑顔に一歩足を下げた。
やばい、やばい。
遠回りだと分かりながらも全力で後ろを向いて走り出す。
背中の方から、10数えたらスタートじゃあ、なんて声が聞こえた。
「お家に帰るまで一緒じゃ」
けらけら笑う雅治の足元から伸びる白い影も笑っていた。
影踏みする人
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