教室に戻ると、何故だか柳生くんではなく仁王くんがそこにいた。


「仁王くん、柳生くんは?」

「プリッ」


会話終了。
柳生くんの席に座ってクルクルとペン回しをする仁王くんはどことなく楽しそう。
柳生くん、早く来ないかな。
日直の仕事が終わらない。
仕方ないから先に日誌を書いてしまおう。
なるべく仁王くんの視界の端に行けるように椅子を寄せる。
と、


「のぅ、知っとるか」


まずった。
なにか仁王くんの興味を引くようなコトをしてしまったのか。
ゆっくりゆっくりと仁王くんの方に向いて、へらりと笑った。
仁王くんは頬杖をついてこちらを楽し そうに見ている。

これは完全に仁王くん。
一瞬柳生くんが仁王くんに化けているのではないかと思ったのだ。
前に仁王くんの恰好をした柳生くんに声をかけた時に何故だか驚かれたのを思い出す。
他の人には見分けがつかないものらしい。
ちらちらと視線を外すフリをしながら確認しても、目の前にいるのは仁王くんだ。


「昔蜘蛛が好きで好きでたまらない男の子がおったんじゃ」


もういいかな、と日誌に向こうとした瞬間に仁王くんの口から声が出た。
蜘蛛、?



小さな蜘蛛を大切に手の中に隠してたり、家で見つけた蜘蛛を飼う真似をしたりしてた。
ある時、男の子の学校で仮装大会が開かれるコトになってのぅ。
行事近くになって色んな衣装をみんなが自慢している間に男の子はコツコツ1人で準備をした。
当日学校には子供1人が楽に入れる大きさの蜘蛛がいた。
みんな驚いたけど、その下から蜘蛛好きな男の子の笑い声がした。
そう、男の子は大きな蜘蛛になりきったんじゃ。
あまりにもリアルな出来で、女の子たちが少し怖がるくらい。
男の子はみんなを脅かして回っては、それを楽しんでいた。
行事も終わって家に帰ってさぁ下ろそう、と思った時、作りものの蜘蛛はぴたりと男の子の背中から剥がれなかったんじゃ。
男の子は焦った。
もしかしたら接着剤が服に引っ付いてしまったのかも。
一生懸命引き剥がそうとしていた男の子は、いつの間にか



「そこから消えて、子供がすっぽりと収まってしまうくらい大きな蜘蛛が残ってたんじゃと」


そこまで話すと仁王くんはクツクツと笑った。
なんだろう、なんでだろう。
まるで捕食される側のような圧迫感。
あんまりにもホラーじゃないか、背中に冷や汗が伝う。
都市伝説のひとつにしかすぎないはずなのに、何故か物言わなくなった大きな蜘蛛が頭の中で這った。
表情筋が突っ張ってしまったように上手く笑えない。
痙攣する口角をなんとか上げて仁王くんに笑みをくれてやる。
やだ、なにこれ。もう、逃げたい。
ガラリ、と教室の扉が開く音がした。
助かった。
柳生くんが来たに違いない。
いつもの通りに、委員会が長引いてしまいまして、なんて言い訳を聞かせて。
仁王くんの視線から逃げるが為に扉を振り向いて、固まった。
なにが、起こってるっていうの。



仁王くんは銀色の綺麗な髪を靡かせる。
金色の目は新しい玩具を見つけた子供みたいに半月に歪んだ。


「苗字には、」


仁王くんが、


「「どっちの俺が本物に見える?」」


2人いる。




都市伝説









- 1 -


[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -