仁王はなんらかの形で拘束されるのを嫌った。
女の子は好きでも、女の子の嫉妬は嫌いだった。
数学は得意でも、授業時間が嫌いだった。



「靴を履きなさい」
「嫌じゃ」

ぺたぺたと屋上庭園の縁石を裸足で歩く仁王に言ってやったけれど、案の定瞬殺された。
汚い廊下じゃないだけましか。なんていつも通りの溜め息を吐く。
部活が好きだから学校に来るものの、仁王は制服が嫌いだと行った。
一度「全裸で登校したらいかんかのぅ」なんてモロ犯罪なコトを言われた時には正直ドン引きした。
なんだよ全裸で登校って。
究極の選択をして仁王は制服を緩く着て、屋上に来ると上履きと靴下を捨てて生活をしている、らしい。
私には分からない感覚だ。

「授業だよ」
「音楽じゃき、行きとうなか」

行かん、なんてきっぱり断言されても困る。

「名前もさぼりんしゃい」
「嫌だよ」

なんてコトを言うんだ、この銀髪は。
お前が何をしようが勝手だが、私まで巻き込んでもらっては困る。

「行っちゃうんか?」

弁当を片付けてさっさと立ち上がると、後ろから慌てたように声が飛んできた。
答えはイエスである。
あったりまえだ。
そこらの銀髪とは違うのだ。
ましてや、今まで授業なんてサボったコトがない。
そんな大それたコトが出来ようか、いや出来ない。
さっさと背中を向けた屋上をあとにしようとした。

「待って!」

そういえば、これまで仁王が無理にサボろうなんて言ったコトはなかったっけ。
頭の隅でぼんやり考えて、後ろから飛んできた言葉を聞きながら、足は止めなかった。
屋上のドアはいつでもひんやりしている。

「名前、!」

ぺたぺたした音がだんだんだんだん近くなって、扉にぶつかりそうなくらいの勢いで仁王が後ろから飛び付いてきた。

「な、なに」
「行かんでよ」
「は?」
「行かんで、よ」
「仁王…?」

妙に弱々しげに見えたからか、無意識的に前に回っていた仁王の手を掴んでいた。

「う、わっ!」

ぐらっと体が後ろに傾いたかと思うと、仁王ごと尻餅をついた。
語弊がある。
仁王が引っ張ったのだ。
おかげて私はお間抜けな声を出してしまった訳。
一気にボルテージの上がった怒りの矛先を向けようとすれば、あの何もつけていない足が囲うように伸ばされた。

「行かんで、」
「だか、」

「音楽室、行かんで」
「教室も、行かんで」
「部室も、ダメじゃ」

ぎゅう、と抱き締められる力が強くなった。

「俺から離れていかんで」

あんな男んトコ、行かんでよ。

見られていたのか。
そう思う反面、仁王は本当にずるい男だと思った。

「裸足の男は嫌」
「だって窮屈」
「私だって窮屈なのは嫌いだもの」

私だけ仁王に縛られるなんて納得行かないじゃない。


素足のまま歩く









- 26 -


[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -