「雅くんなんて大嫌いなんだから!」

廊下で見張っているであろう女の子たちに聞こえるように、大きな大きな声で言った。
このまま喉が潰れてしまえばいいのに。

そっと立ち去るなんてコトを彼女たちはしないんだろう、パタパタと上履きが楽しそうになる音がどんどん遠ざかっていった。
叫んだばかりの喉がひりひりする。
喉が潰れてしまえばいいのに。

2人っきりの教室が、無音になった。
噛んでいた唇を解放して、酸素を取り込んでみたけれど、

「ごめんな」
「…」

結局またなにも言えずに頭を横に振るコトしかできなかった。
ぎゅっと抱き締めてくれる雅くんは私なんかよりも何倍も何倍も苦しそうだった。
雅くんが謝るコトは1つもないのに。
ゴミ箱に捨てたボロボロの教科書よりも、びしょびしょになった体操服よりも、何よりも雅くんが大切なはずなのに、雅くんに甘えてばっかりの私は弱虫だ。

「俺は、名前と別れとうない。別れんぜよ」
「…うん」
「いくら言われたって別れてやらん」
「うん」

嫌いなんて、大嫌いなんて嘘なのに。
そんな大嘘を言って後悔しても雅くんに謝れない私は、私は。

「嫌い、なんかじゃ…ないの」
「うん」
「雅くん」
「ん?」

雅くんの背中に回した腕にぎゅーっと力を入れた。

「嫌いなんていって、ごめんなさい」

ふっ、と息を飲んだのが体越しに伝わってきた。
もっともっと抱き締められる力が強くなった。
私、「ごめんなさい」って言うのが怖かっただけなんだ。
つん、と目の奥が熱くなって、雅くんの胸に顔を押し付けた。


らいらいらいきらいらい





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