「なぁ、ヨリ戻そう」
「相変わらず君は都合のいい物言いをするね」
仁王雅治がなんとなしに嫌いだった。
付き合ってくれと言われたから、はいいいですよと答えたまでだった訳で。
1ヶ月ももったと専ら噂になったらしい。
その間に手も繋いだし、キスだってした。
仁王雅治が。
私は何も言わなかった。
そのうちするだろうと思っていた浮気も、その1ヶ月はまるで嘘のようになかった。
だけれど、だけれども、1ヶ月を丁度過ぎた時に向こうから言ってきたのだ。別れよう、と。
はいいいですよ。
それだけ言ってさようならをしたはずだったのに、2週間もしたら仁王雅治は何故か私の周りをうろうろし始めていた。
そして言うのだ、何回も何回も。
「なぁ」
「君は一体全体何がしたいんだ」
「ヨリ戻したい」
「別れようと言ったのは君じゃあないか」
「別れとうなかった」
驚愕もしないが新事実。
ただただぽかんと口を開ける以外の反応が思い付かなかった。
「1回も…、」
色素の薄い肌と、同じように色の淡い、薄い唇。
ぽつりと声を出すにはあまりにも小さすぎるのではないだろうか。
「1回も好きって言うてくれんのじゃもん」
俺ばっかり好いとる。
それだけ言うと拗ねたようにそっぽを向いてしまった。女々しい奴。
きっと毎日心臓をドコドコさせながら待っていたんだろうけど、残念ながら心臓に毛が生えたような女な私にそれが通じなかったのだろう。
勢いとノリだった訳だ、ようするに。
なんて都合のいいヤツ。
「仁王雅治、ゲームしよう」
「ゲーム?」
「私を惚れさせれば、言うことを聞いてあげよう」
都合のいい男には、都合のいい女が必要なのではないだろうか。
都合のいい人間
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