真面目なのだ、この男。
「おい不真面目」
「どっからどうみても真面目じゃろ」
「数学は2時間前に終わったよ」
「プリッ」
開きっぱしのノートの端っこにひよこが鳴くからそれが数学のノートだと分かる。
なにを考えていたのかは全く分からない。
きっちり書き込まれているのは理科だけれど。
目が虚ろ。こっちを見る。
「不真面目なんて周知の事実じゃろ」
「うん、知らなかったな」
ぎらぎらしたやる気のなさに乾杯。
授業はおろか、帰りのホームルームすら終わっているのにぼんやりとしている仁王は更年期障害の弊害を食らったマダムのようだ。
溜め息の吐きすぎで周りの空気は全部溜め息。
吐いた分だけ取り込むから幸せが逃げない幸福者。可哀想に。
「のぅ、名前」
「さぁ、なんだい」
ガッタンガッタンと椅子をうるさく引いて立ち上がる。
重そうなラケットバッグに背負われるのかと思えば、ちゃんとぺらぺらな背中にそれは収まった。
「クズはどうしたってクズじゃよ」
それだけ言って少しだけ大股で教室から消えていく仁王を見送った。
柳生のレーザーよりも遅いレーザーと、足元にも及ばないなんて言われたイリュージョン。
どこまで頑張ればいいのなんて乙女チックなコトを言えない仁王は、ちょっとやっぱり哀れだ。
真面目なクズ
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