「仁王くん可愛いね」

ギョッとした。
隣の女がとうとう可笑しくなったかと。
いや、もともと可笑しいのはある。
しかしギョッとした。

「なに言い出すんじゃ…」

にこにことこっちを見るのをまず最初に止めていただきたい。気味が悪い。
昨日と同じ内容を繰り返す教師にクラス中がお喋りか居眠りか。
誰一人としてコイツの理解不能な言葉を聞き取ってなんかいなかった。
威嚇するみたいにグッと背筋を伸ばすも、全く意味がないようで、可愛い可愛いと、頭を撫でられそうにさえなった。
どういうこった。

「とうとう見境なくなったんか」
「失礼だね」

窓にくっつくくらいに身を引けば、ようやく妥当な反応。
それそれ、普通はそれ。
だけれど、また間を空けずにくすくす笑いだした。

「さっきからなんで笑っとるんか検討つかんぜよ」
「仁王くんは可愛いね」

かしょん、とペン回ししていたシャーペンが落ちた。
それを拾って俺に差し出してくる。

「ぴよっ」
「ほら可愛い」
「は?」

差し出されたシャーペンを握ったまま固まる。
どこが。

「左利きの仁王くん」

しっかり握っていたからか、名前が手を離してもシャーペンが床にまた落ちるコトはなかった。
その代わりにもう一度ギョッとする羽目になった。
カァッ、っと顔に熱が溜まっていくのが分かる。

「以外と努力家さんなんだもんね」

へらへら。
的を得すぎたその顔が気に食わなくて、受け取ったままの左手でシャーペンを回した。
綺麗に一回転した。


ペン回す






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