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アリス教授のご講義2

怪人ハンター。
それが私のもう一つの顔だ。

世の中には変わったものを欲しがる奴がいる。金目的だったり研究目的だったり単にコレクション目的だったり、理由は様々だ。で、その物欲のアンテナを怪人に向ける奴らは年々増えている。そしてそんな危ない物を欲しがるのは、大半がマトモじゃない奴らだ。
私の仕事は、そんな奴らが所望する怪人を狩って依頼主の元に運ぶ事。生きたまま欲しがる奴は滅多にいないから、私にとっては割と簡単な作業だ。災害レベルが高い相手なら始末自体はヒーローに任せれば楽ちんだし。

「これはこれは、お早い到着で」
「こんなキモいもん、さっさと持ってってほしいからさ」

B市旧中心街、復旧途中のこの町にひっそりと残ってる小さなバー。施錠されて看板は常に「CLOSE」になってるけど、インターホンに合言葉を言えばドアが空いてマスターが中に入れてくれる。カウンターにいた依頼主の隣に座り、ボストンバッグをドンッとテーブルに置いた。中に入っているのは、頼まれていた怪人の一部。

「異形獣メタモンキーの脳、確かに受け取りました。お代は何時もの口座でいいですか?」
「うん。じゃ帰るわ」
「もうですか?よければ食事でもご一緒にどうです?」
「遠慮しとく。家で副業の方やらないといけないし」
「今Z市に戻られるのはお勧めしませんね。あそこはもうすぐ消滅しますから」
「…は?」

言ってる意味が解らない。
怪訝そうな私の顔を見て依頼人が「そろそろ一般にも報道される頃でしょうね」と言う。数日前に手に入れた最新版のリンゴちゃん会社のスマホをポケットから出して、ニュースアプリを開くと速報が表示された。

「流石にB市まで来ることはないでしょう。ここで私と食事をしながら次の仕事の話でもしていませんか?」

「…Z市に、隕石迫る……は?」

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結論から言うと、Z市は壊滅は免れた。
あのままだとZ市及び周辺都市をも更地に変えただろう隕石を、我らがヒーローサイタマがワンパンで粉砕してくれたからだ。
けど元のサイズがデカかったから、粉砕されたとはいえそれなりに大きさも威力もあったわけで。Z市上空で四魂の玉の如く砕け散った隕石は、その欠片を町中に撒き散らしたのである。まあ元の何千分の一の大きさだからね。お陰で死者ゼロだよゼロ、最早奇跡だ。
だが世間も同じ意見とは限らない。

「人間ってのは目に見える部分だけで物事を判断しがちなんだよ。赤の他人相手だと尚更ね。それにいちいち目くじら立ててたらキリないよ若いの」
「お前は何とも思わないのか!先生がこんな扱いを受けて…!」
「本人が何とも思ってないのに私らが事を荒立ててどーすんのさ?下手打って更にサイタマの立場悪くするくらいなら静観した方が賢明ってもんだよ。深い川は静かに流れる、ってね」

Z市住民にとってサイタマは、低級のクセにしゃしゃり出て町を滅茶苦茶にした悪人という認識らしい。サイタマがやらなくてもS級が何とかしたのに、だってさ。無知とは恐ろしいねえ、誰のお陰で自分達が死なずに済んだのか気付きもしないんだから。
で、その真相を知る数少ない人物の一人ジェノス君が、私の前で苦虫を噛み潰したような顔をして今日あった事を非常に細かく語ってくれている。この子には余裕ぶったこと言ったけど、確かにそれは私がその場にいたらキレてたかもしれない。ジェノス君よく焼却砲ブッ放さなかったね成長したね…!

「にしても、これだけの偉業を成し遂げたヒーローがまだC級止まりとか。協会の奴らもナメてんね」
「俺的には300台から5位までぶっ飛んでてすげービックリしてんだけど」
「あんなに派手にやってんのに何でインチキだって思われるんだろ…あれかな、ビジュアルの問題かな」
「頭のことを言っているのか。燃やすぞ」
「言ってない。そうじゃなくてコスチューム。私服もそうだけどサイタマさ、ファッションセンスが微妙なんだよね」
「人のこと言えねーだろ!いつもよくわかんねー柄の服着てるクセに。今も何だこれ…松?」
「失敬な、時代の最先端の推し松パーカーなのに!今に松ファッションが巷に溢れかえるんだからな!」
「こえーよ!何の宗教だよ!つーかお前、何時まで俺ん家に居座る気だよ!」
「オメーは帰宅した時に私の部屋の有様が見えなかったんですか。到底生活できる状況じゃねーからだよてやんでぇバーローちくしょー」

ジェノス君を真似てジト目で見ると明後日の方を向くサイタマ。そう、かくいう私もサイタマの隕石粉砕で住居がぶっ壊れた市民の一人なのだ。
速報を見た3時間程後にマンションに戻ってみると、何故か私の部屋ピンポイントで隕石が落ちていた。3mくらいの小さな破片になっててサイタマの部屋までは届いてなかったけど、私の部屋は壁半分とベランダが無くなり隕石が居間を占拠していた。ピアノもパソコンもぺしゃんことか、泣きたい。
そんな訳で住民側の気持ちも解ってしまうため、無遠慮を承知で食料と布団を持ってサイタマ宅に上がり込んでいる。台所とコレクションは無事でよかった…パソコンのデータは復元できるようにしてるから部屋とピアノさえ何とかすればいいな。

「今日はここで寝かせてもらうかんね。部屋は明日ウボ兄が直しに来てくれるから」
「ああ、前うちの壁も直してくれたあのでっかい奴か」
「部屋はともかく、お前はよく無事だったな」
「あの時Z市にいなかったからさ。でも家にいた方がマシだった気がするわ…」
「引き籠りって言う割には意外と外出してんな…あれ、お前何時に出てった?ドア開ける音聞こえなかったけど」
「あー、10時過ぎかな。市外のメイトじゃないと売ってないグッズがあってさ」

実は外出したのは早朝で、玄関使わずにベランダから出発したなんて教えない。
サイタマはともかくジェノス君は厄介だ。どこから私の仕事が暴かれるか解らない。

「可笑しいな。その時間なら俺はまだ家にいたが、お前の外出は探知しなかったぞ」
「それアレじゃない?私が隣の部屋で引き籠ってるのが当たり前すぎて、わざわざ確認してなかったんでしょ」
「そんなわけ……いや、そうなのか…?」
「あーあるよな。そこにあって当たり前っていう、歯ブラシ的な」
「私歯ブラシとイコールなの?まあ、そんだけ私が君らの日常に溶け込んでるってことかな。なんか照れるねえ」

幸いにも彼も師匠と同じく、私は何時の間にかいなくなってたって認識らしい。絶をして出てったのが気付かれていない。監視カメラや赤外線をも欺く念能力だけど、サイボーグも同様みたいだ。顎に手を当てて考え込むサイボーグを放置して、サイタマにパスタ麺やらトマトやイワシの缶詰やらを押し付ける。家に有り余ってる貰い物を今こそ消費してもらおう。

この日ジェノス君は私が持って来た食材を使って本格イタリアンを作ってくれたんだけども、チーズも持って来ようとしたら「アンチョビソースにチーズはかけない」って怒られた。何その予備知識、何でそんなイタリアの食文化に詳しいの?そろそろ外国語翻訳機能とかも登場しそうで怖いわ。


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