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アリス教授のご講義3

サイタマと反対隣りの部屋の壁をぶち抜き、以前の二倍に広くなった部屋。
風呂場とトイレを別にして、ベッドを入れて寝室を作り、漫画用に本棚も増やした。
ぴかぴかのピアノ。最新のデスクトップパソコン。新しく用意したエレクトーン。
更に全部屋防音加工。これで真夜中にガンガンピアノ弾けるしアニメも音量気にせず見れる。
前より開放的になった我が家に不満なんてない。

「ヒナ。時々お前の部屋から動物らしい生体反応が出るんだが、何か飼っていたか?」
「あー、それネコだわ。この近所の野良で可愛いのがいてさ、たまに連れ込んでんの」
「どんな病気を持っているか判らないぞ。触るなら外でだけにしろ」

前言撤回、サイボーグ対策もするべきだった。
仕事から帰って匣兵器をアニマル状態にしてたら目敏い隣人にスキャンされていた。あの子も時々リラックスさせたげたいから、武器かアクセサリーにしかしないってのは嫌だ。そろそろうちにある武器も彼のセンサーに引っ掛かってきそうだし、下手な嘘吐き続けるより何か考えないとな…
そう思って練った打開策が、後々いろいろと役立つことになる。


   *  *


「(はぁ…つまんねーな。今回は少し期待したんだけどな…)」

後ろから聞こえるブーイングを無視して溜息を吐く。
自分を悪者にするようなセリフを言った理由なんて特にない。ただボロボロになって戦ったジェノスや仮面ライダーっぽい奴や、他の頑張ってたヒーローが蔑ろにされてるのにモヤっときた。それだけ。
雨も上がったし、晴れてる内に買い物して帰ろう。今日ヒナを誘って鍋しようと思ってたのに、言いだしっぺのジェノスがこれじゃ無理だな。この前いい食材貰った礼だって、なんやかんやでヒナのこと気にかけてるよなー。海珍族?に背を向けて、ジェノスを回収しようとしゃがんだその時だった。

「キャアアア!」
「な、何だあいつ!?」

俺の後ろを指さして悲鳴が上がった。つーかこいつら、まだいたのかよ。とはいえこのビビリっぷり、また怪人が出たのか?しゃがんだまま海珍族の方に向き直る。
悲鳴の正体は、例の怪人の死体の上にいた。

「…何だお前?」

まず目に付いたのはガスマスク、そして黒色。耳まで覆うニット帽もジャケットもズボンもブーツも黒一色。その中で鳥みたいな銀色のガスマスクだけが不気味に浮いている。人間…だとは思う。そして視線を下ろすと見付けた、黒いグローブに包まれたそいつの手。その手が掴んでいるのは、怪人の首だった。
腹に穴を空けたのは俺だけど他は何もしてない。つまりこいつがやったんだろうけど、刃物を持ってるように見えないのに首はナイフを使ったみたいに綺麗に斬られていた。首から血が滴って、ギャラリーから息を呑む音が聞こえる。

「き、さま…それをどう、する気、だ…」
「おいジェノス、無理して喋んな……ん?」

既に理科室の骸骨みたいになってんのに起きようとすんじゃねーよジェノス。そう言ってやんわり止めながら、視線はガスマスクから外さない。そうしてるとふと、ある事に気付く――こいつは俺が見てる間一言も話さず動きもせず、ずっとジェノスに視線を向けている。
マスクの奥の顔は見えないが、悪意とかは感じない。でも声を掛けようと一歩踏み出した途端、バッタみたいにビルに飛び上がって見えなくなった。屋上まで登りきる前に一回だけこっちを見たのは、多分気のせいじゃない。
その後やって来た救急隊員や報道陣相手に、ギャラリーが口々に「怪人ハンターが出た」って騒いでるのを聞きながら、俺はジェノスを拾って今度こそその場を後にした。

――――――――――
―――――――
―――――

「ヒナ、夕飯持って来たぞ」
「あとお前宛の手紙こっちに紛れてた、って…あー…」

予め鍵の開けられてたヒナの部屋に、作ってきた晩飯と手紙を持って入る。今までだったら「レディのプライベートゾーンだから出禁な」って言われてた(ジェノスには前科もあったから余計にだ)けど、部屋がデカくなってスペースも気持ちにも余裕ができたらしい。ノックをすれば快く中に入れてもらえる事が多くなった。
人面魚怪人の事件から数日経ち、前回お流れになった鍋をしようと部屋にお邪魔すると、しかめっ面で何かを読んでるヒナが見えた。覗き見るとそれは、昨日見たやつに似た俺への悪口が書かれた手紙。ヒナんとこにも誤送があったらしい。つられて隣のジェノスもしかめっ面になった。

「悪いな、いらねーもん見せて。捨てといてくれ」
「流石天下のサイタマ先生、この程度じゃ動じないか。そこにシビれるあこがれるゥ!」
「へーへー。いいから鍋始めんぞーってうわ、でっかいテレビ。前からこれだったっけ?」
「んーん、昨日思い切って買い換えた。最近大きい収入があったからさ」
「収入?作曲のか」
「あー、うん。まだ楽曲提供しただけでリリースはずっと先だけどね」

鍋をガスコンロにセットしてテレビを観察する。おお、超薄い。これで映画見たら迫力あるだろうなー、なんて思ってるのを読まれたのか「今度ポップコーン買って映画鑑賞会しようず」と声がかかった。けど俺も映画に乗じてポップコーンをたかろうとしてるこいつの魂胆くらい見抜いてる。
おう、と短く返事をしてから誤送されてたヒナ宛ての手紙を渡す。英語じゃなさそうなアルファベットで書かれたそれはイタリア語らしい。封を開けるとジェノスと同い年くらいの白髪の男と妹?と思しき女の子がピースサインをした写真が同封されていた。その写真の二人を見た瞬間、ヒナは眉間に皺を作って小さく舌打ち。えっ?

「何で舌打ち?友達じゃねーの?」
「違う。弟分の友達…友達かな?とにかく私と直接は関わりのない奴だよ」
「弟分…前も言っていたな。実の弟ではないのか?」
「実家の隣に住んでた子でね、小さい頃から兄弟同然で育ったからそう呼んでんの。今自立して海外にいるんだけど…この白トゲ頭曰く元気にしてるみたいだね」

写真を仕事机に置いたヒナは、それ以上その話題について話すことはなく台所へ行ってしまった。それを見送った俺は改めて写真に視線を落とす。明らかに外国人の二人に、背景に映る教科書に載ってそうな外国の建物。直接は関係ないなんて言ってたけど、そんな相手がわざわざ写真まで同封して手紙なんて送ってくるだろうか。
そこまで考えて俺ってヒナのことあんまり知らないなってことに気付いて、同時に最近他人に対して関心持つようになったなって思う。晩飯だってちょっと前まで一人で卵かけご飯が普通だったのに、今ではジェノスが何か作ってそれを時々ヒナがたかりに来るってのが当たり前になっている。そしてそれが、俺の毎日の楽しみになっている。
こんなに俺の日常が着実に変わってきてるんだから、焦らなくてもヒナのことだって少しずつ解ってくるんだろう。
そう結論付けた俺の前には呑水と箸を持ったジェノス、ビールと烏龍茶の缶を持ったヒナが食卓に着いていた。



(ジェノス君さ、もう体大丈夫なの?すんごい壊れたって聞いたけど)
(ああ。クセーノ博士に新機能を搭載して頂いて、前よりも強化されたボディで戻って来たぞ。溶解液でも溶けにくい塗装を加え、従来の生体反応に併せて金属や有害物質も探知できるようになっている)
(…そっか。元気になって帰って来たなら何よりだ)

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初めて見た時は男にしか見えなかったのに、読み進める内にどんどん女の子に見えてくるという謎の現象をもたらしたソニック氏。いろんなサイトさんがあだ名を作ってましたが、とある夢サイトさんの「音楽のソニー」が私の中で最優秀作品(笑)


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