白雪 | ナノ
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「ちゃおっす」

何処からか子供の声が聞こえた、ランボの声ではない。その場にいた全員が横の塀に目を向けた。
其処に立っていたのは小さな赤ん坊。
黒いスーツ、首のおしゃぶり、ボルサリーノ帽に乗せたカメレオン。隅から隅まで異常な出で立ちである。次々やって来る謎に京都の頭は崩壊寸前だった。頭は悪くないつもりなのだが、今は現状が全く解らない。

「俺はリボーン、ツナの家庭教師だ。お前が鳶尾京都だな?」
「…あ、ああ…赤ん坊?家庭教師って……」
「その話はウチに着いてからしてやる。取り敢えず付いて来い」
「おいリボーン!まるで自分の家みたいに言うなよ、俺ン家だろ!?」

一歳かそこいらの赤ん坊が言語を話せている、二足歩行をしている。
環境も人間も、自分が普通だと思っていたものが全て覆されている。
呆然と立ち尽くしたままの京都を見て、山本がその背中を押して沢田宅に半ば強制連行した。


   *  *


「俺達はボンゴレファミリーだ。イタリア最強を誇るマフィアの事だぞ」
「直球ーー!?」

綱吉の部屋に通された途端、物騒な言葉が赤ん坊の口から飛び出した。
しかし此処に来て異常な事に遭遇しまくった京都にはもう免疫が付いてしまったようだ。
と言うより、自分の組織にマフィア紛いな事を仕出かす馬鹿共がいる(親馬鹿とかゴリラとかドSとか)。
綱吉は矢鱈と焦っているが、京都は構わず続きを促した。

「そうか。と言うことは、差し詰めお前はこの三人の教官と言ったところか?」
「本業は殺し屋だがな。今回はツナをボスとして育てる事が仕事だ」
「ツナ…と言うと?」
「このチビだぞ」
「チビ言うな!つーかマフィアになんかならないし!」
「殺し屋か…それが幼児のごっこ遊びでなく本当の話なら、お前は体術も頭脳も此処の3人より秀でているという事になるな」
「疑問に思わないんですか鳶尾さん!?」
「ま、そういう事だな」
「ならば…――」
「十代目!」「ツナ!」

突然京都は、脇に置いていた刀を取った。恐ろしい勢いで刀が鞘を走る。
視線の先が綱吉である事に気付き、獄寺と山本が叫んだ。しかし彼女の神速の剣技に勝てる程、彼等の体は恵まれてはいない。
ダメだ、斬られる!瞬時にそう思い、せめてもの防御に綱吉は両手で顔を隠し目を瞑った。

―キィィン!

「…ふむ、腕は本物のようだな」

辺りに金属音が響く。何時まで経っても痛みが来ないため、恐る恐る綱吉は目を開けてみた。
すると目の前には家庭教師の姿。十手に変形したカメレオンで、京都の刀を防いでいる。

「俺を試すために、敢えてツナを狙ったんだろ?」
「今の一瞬でのその判断力と瞬発力……取り敢えず信じよう、マフィアの話」

言うが早いか京都は刀を鞘に収め、十手も元の愛らしいカメレオンの姿に戻った。
実験台にされた綱吉は、一気に全身の力が抜けた感じがした。
が、次に発せられたリボーンの一言で再び全神経に緊張が走った。

「ますます気に入ったぞ。鳶尾、お前ボンゴレファミリーに入れ」
「んなっ!本気ですかリボーンさん?こんな――」
「そうだな、此方からも頼む。入らせてくれ」
「えーー!逆にお願いされたーーー!?」
「鳶尾もマフィアごっこに入るのか?スゲーじゃねーか!」
「俺も銀魂は読んでるぞ。ちなみにお前は俺の“ファミリーに入れたいランキング”ベスト3に入ってるからな」
「山本から借りた漫画そんな風に読んでたのかよお前!」
「うがっ!十代目、野球馬鹿と漫画の貸し借りなんて…っ」

ものの数秒で京都のボンゴレ入りが決まった事に、最早驚く事しかできない綱吉。
好きな漫画の登場人物と親しくできそうな雰囲気に嬉しそうにしている山本。
思わぬところで敬愛する人物との隔たりを見付け、どうでもいい嫉妬の炎を燃やす獄寺。
三者三様の反応をする彼等を眺めながらリボーンはニヤリと笑った。

「そうと決まれば次は衣食住の確保だな。っつー事だから今日からお前は此処に住め」
「あ、そうだ…って、何でお前が決めてんだよ!」
「そうですよリボーンさん!十代目のお宅にはガキ共がいるんです!この上更に厄介事を増やすのは…」
「厄介者扱いか…ならば安いアパートでいい。それこそマフィアの力で何とかなるだろ?」
「お前がそれでいいなら構わねーが、お前飯はどーすんだ?」
「女中に教わって多少は作れるし、いざとなればコンビニがあるさ。問題ない」
「(まともな食事取らなさそうだよこの人!)あの、やっぱりウチに…――」
「だったら俺ん家来ねえ?」

京都の住む場所で揉めていた所で、山本から声が上がった。
好奇心の目で見られているのではと居心地の悪かった京都だが、本人は別にそういう意味で言った訳ではないらしい。

「ウチ、俺と親父の二人だからさ。母ちゃんが使ってた部屋に来りゃいいし」
「…お前の父親が迷惑じゃないか?」
「全然。寧ろ賑やかになりそうで嬉しいぜ」
「いいじゃねーか。山本の家なら俺達も会いに行き易いしな」
「…そうか。なら、厄介になる」
「おう!あ、俺山本武って言うのな」
「そう言えば自己紹介まだだった!俺は沢田綱吉って言います」
「………獄寺隼人」
「山本、沢田、獄寺、そしてリボーンだな。鳶尾京都だ。改めて、これから宜しく頼む」
「いえ、こちらこそ!」

どうやら何とかやっていけそうだ。
お互い挨拶を済ませ一息ついたその時、閉めていた綱吉の部屋のドアが勢い良く開いた。現れたのは、先程の仔牛。

「京都ーーー!俺っちと遊べーーー!」
「こら、ランボ!部屋に入って来るなって言っただろ!」
「やだーー!京都と遊ぶんだもんね!」
「このアホ牛!てめーは一々めんどくせー事を…!」
「ハハッ!鳶尾に随分懐いてるのな!」
「ウゼ…「ランボ」!」

いつも通りのウザさに対して、いつも通りリボーンは蹴りをかまそうとする。
しかし、それは横から仔牛の名前を呼んだ京都によって遮られた。
その声の鋭さに、誰もが動きを止めて彼女の方を恐々見詰めた。
視線の先に居た京都は、流石警察とも言うべき恐ろしいオーラを醸し出していた。

「年上の言う事は聞け」
「……ぴっ…」
返事は?
「Σぐぴゃっ!はい……」
「よし」
「「「(怖ぇえええ!!)」」」
「アホ牛をも黙らせる気迫…流石鬼の副長と並び立つ女だな」

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