青そら | ナノ
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突然聞こえた新たな声。覚えていない恭は誰だか解らず、他の者は呆れもしくは怒りで、店内に暫しの沈黙が下りる。
視線の先には、店の隅に置かれた段ボール。十八郎が空にした筈のその中に、黒い制服を着た大柄な男が潜伏していた。
しかし次の瞬間に侵入者目掛けてお妙の殺人キックが繰り出され、壁に2つ目の穴が出来上がる。

「……あの、誰ですか?あの人も知り合いですか?」
「知らねぇ」「知らないアル」
「気持ちは解るけど嘘言わない。恭さん、あの人は近藤勲さん。一応警察の人だよ」
「警察の人がストーカーやっていいんですか!?」
「恭ちゃんの言う通りだわ。一体ここで何をしていやがるのかしらクソゴリラ」
「いや…今日は私用でここに来たんですが、ミラクルな事にお妙さんを見掛けたもんですから居ても立ってもいられず…」
「ウチの段ボールに忍び込んだってか。相変わらず見事なまでの変態っぷりじゃの」

鼻血をダラダラ流しながら白状するストーカー基、近藤。十八郎の口振りからして、彼もこの店の常連らしい。この薬局有名なんか…、と恭は呟き辺りをぐるりと見渡した。記憶を呼び覚ます物があるかもしれない。
しかしその不自然な行動を、近藤は見逃さなかった。

「恭ちゃん!さっきチラッと話は聞こえたんだが、まさか本当に記憶喪失なのか!?」
「うきゃァァアアア!!」

ぐわしっ!と効果音が付く勢いで恭の肩を掴んで迫る近藤。
お妙の時と違って全く下心はなく、純粋に彼女を心配したが故の行動だ。だが如何せん、必死すぎて顔が近い。
いきなり男の顔を間近で見て、恭は驚きと恐怖のあまり涙目で悲鳴を上げた。

「痛ましい!何とも痛ましい!俺達と剣術修行に励んだあの厳しくも楽しい日々をも忘れてしまったのか!?」
「どぴゃァァアアア!?」
「いや、今の恭ちゃんが悪い訳じゃない。自分を殺さず、ありのままを見せてくれる君も喜ばしい!だがそこに記憶が伴わないと、記憶が戻った時に逆戻りになるかもしれん。それもまた寂しい事だ!」
「みぎゃァァアアア!?」
「恭ちゃん、今からでも遅くない!真選組に入隊して侍道を極めないか!?侍道とは剣術だけでなく、己の精神も磨くこと。きっと記憶の鍵も見えてくる筈だ!」
「ぅえぇぇええンン!!」
「おいゴリラコングぅぅ!何恭ちゃん泣かしてんだヨ!あとさり気に勧誘してんじゃねェェ!」

容赦ない悲鳴を上げる恭を余所に新八は「桂さんだけじゃなくて真選組にも勧誘されてんですか…」と場違いな事を考える。
彼女の両隣の神楽と銀時が近藤に食ってかかり口論になっているが、万事屋と真選組の恒例パターンなため気にも留めなかった。
だがここで新八が失念していたのは、この場には最凶のゴリラキラーがいた事である。

「私じゃ飽き足らず恭ちゃんにまでセクハラかましてやがったかゴリラァァ!今日こそ年貢の納め時じゃァァア!恭ちゃんはさっさと目ェ覚まさんかいィィイイ!!」
「へ?」
「ちょ、お妙さ――」

―バキィィイイ!!
―ぐしゃぁァアア!!

痛々しい音と毒々しい音が同時に響き、近藤と恭が同時に床に倒れた。
顔面にお妙の拳を受けた近藤は、鼻を圧し折られ顔を鼻血で汚して。
顔面にお妙の卵焼きを食らった恭は、口から泡を噴き顔を炭だらけにして。

「こ、近藤さん!?」
「恭ちゃん!」
「おい、しっかりしろ!」

白目を剥いて気絶した2人に、お妙以外のその場の者が慌てて駆け寄った。やがて意識を取り戻した2人に、九十九夫妻は安堵の息を漏らしたが、万事屋3人には嫌な予感が過ぎる。

「「君達は…誰だ?」」
「「「「「……………」」」」」
「まァ、カワイイ」

予感的中。再び振り出しに戻った恭と、巻き添えになった近藤。揃って落書きされたような目になっている。
その間抜けな目を見て、空気の読めないお妙除く5人は絶句するしかなかった。

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