▽ 6
「…すいません。色々手を尽くしてくれたのに、結局私は何も…」
結局、恭の記憶の手掛かりになるものは日が暮れても見付からなかった。
目に見えてしょんぼりしている恭に自分達まで肩を落としていてはいけないと、3人は明るく言葉を返す。
「謝らないで下さいよ、恭さんの所為じゃないんですから」
「俺達ァ気長に待つから、ゆっくり思い出しゃいい。今日はしっかり休め」
「そうネ、外よりウチの方が一杯思い出あるネ。何か思い出すかも…――」
万事屋へと向かっていた4人は、ふと足を止めた。前方から聞こえる、ザワザワと騒がしい話し声。
大して繁盛していない筈の万事屋の前に、何故か人だかりができている。一体何事だと4人が見上げると…
―ゴゴゴゴゴゴ…
「飲酒運転だとよ」
「ありゃもう建て直さないとダメじゃないの?」
「気の毒にね〜」
「「「「………」」」」
――宇宙船が頭から突っ込み見事に崩壊した、無惨な万事屋の姿があった。
恭以外の3人は本日何度目かの絶句モード。何処からか聞き覚えのある土佐弁の笑い声が聞こえる。
声のする方に目を遣った銀時は、見覚えのあるもじゃもじゃ頭のグラサン男を発見して眩暈を覚えた。
「…どうしましょ、家までなくなっちゃった…」
「今日のところは姉御の所に泊めてもらうしかないアルな」
「あんにゃろう、ぜってー修理代サバ読みして請求してやる…!」
「―――もう、いいです…」
遠ざかるパトカーを呆然と見送る中、零れたように恭が声を漏らした。
意味が解らず、3人共口を小さく「え」の形に広げて恭の方に振り返る。
「考えてみたんです。記憶失くす前の“私”がどんな人間やったんか……
今日お会いした人らの話聞いてたら、“私”はいろんな人に良くしてもらってたんやって解りました。ケータイにもたくさん名前がありました。こんな身元不明の人間に、みんな凄く優しくしてくれたんやって…
けど、そんな人らに“私”はいっぱい隠し事してました。私だけじゃなくて、みんなも“私”の事調べてビックリしてた。みんなの事信頼してへんかった訳じゃない。多分、“自分”を見せる自信がなかったんやと思います。“自分”って変な人間じゃないか、“自分”を見せてみんな離れて行かれへんか、そればっか考えて勝手に不安になって…でもそれって、結局みんなを信じてへんって事になる。大切な人らなら尚更、ちゃんと“見せる”べきやったと思うんです。
けどそれは私じゃなくて、“今井恭”がするべき事です。せやから――坂田さん、志村さん、神楽さん…」
今までにないほど長く淡々と紡がれる恭の言葉。眉尻を下げて俯くその姿は、何処か遠い存在に思える。始めは彼女が何を言いたいのか解らなかった3人も、もしやという疑惑がここに来て脳裏を過ぎった。
顔を上げた彼女は、辛そうながらも何か決意したような表情で――けれど彼女の言葉は、3人に凶器として落とされた。
「私はこの度を以って、万事屋を退職させて頂きます。今まで本当にお世話になりました」
「……う…嘘でしょ、恭さん!」
「やーヨ恭ちゃん、ここにいて!私一人じゃ野郎2人の面倒なんて見られないネ!」
「ごめん…けど私はみんなと一緒におったら、優しいみんなに甘えてまた“自分”を隠してまう。気持ちは嬉しいけど、同じ轍を踏むわけにはいかへん。“今井恭”のためにも、一人で“自分”を見詰め直すべきやと思うんよ」
「ンなこと…」
「何時まで掛かるか解らへんけど、記憶が戻ったら帰って来ます。せやからそれまで…
――私を捜さんとって………」
そう言うと3人に背を向け、人混みに消えていく恭。足が縫い付けられたように動かない。
新八と神楽が泣きそうな声で恭を呼ぶ中、銀時はその小さな背中を見詰める事しかできなかった。
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原作変えてみたけど筋書きまでは考えられなかったorz
薬局で働いてたら化粧品とか安く買えるのかな…
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