青そら | ナノ
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▽ 4

「はァ?記憶喪失?また厄介なモンに罹りよってからに…」
「ちょっとお爺さん、そんな言い方ないでしょう。災難だったわねぇ恭ちゃん」

恭のバイト先・99ドラッグにて。4人を出迎えたのは店長の九十九 十八郎とその妻の乙美。事情を話し終えると乙美は悲しそうな、十八郎は面倒くさそうな顔をしていた。

「じゃあ、誰の事も覚えてないの?」
「はい、自分の名前も忘れてた状態で…」
「記憶喪失…何か効くモン持ってなかったかのォ…」
「ちょっとお爺さん、また恭ちゃんに変な薬飲ませるのやめて下さいよ」
「え、また?今までにもあるんですか?」
「ええ。自分が使いたい物はしょっちゅう、最初に恭ちゃんで試してたのよ。『お前が一番健康体だから』って」
「「マッドサイエンティスト!?」」
「恭ちゃんも断ればいいのに、『欲しい商品をやる』なんて条件懲りずに呑んじゃうんだから…まぁ、化粧品とか女の子の物は大抵値が張るから、タダで欲しい気持ちも解るけどね」

――彼女の生活必需品はここから入手されていたのか。
衣類はお登勢の計らいで最低限は揃えられているし、茶碗や歯ブラシ等は自分達が一緒に買いに行った。
だがそれ以外は?女の子だけが必要とする物も沢山あるだろう。自分には必要な物なのに一切口に出さず、黙って調達していたというのか。しかも一銭も使わない方法で。
確かに万事屋の家賃や生活費を考えると、気遣い症の恭が自分だけの物にバイト代を使うのは抵抗があったのかもしれない。仕事の入らない万事屋のために自分が…と思う気持ちは勿論ありがたいが、そもそもそれは自分が稼いだ金ではないか。

「(恭、そんなに俺らは頼りねぇかよ…)」

彼女の気持ちを尊重したいと思う半面、彼女ともっと踏み込んだ仲になりたいと思う自分がいた。
自分達のために一生懸命になる彼女を嬉しく思う半面、酷く腹立たしく思う自分がいた。
どうしようもなく、歯痒かった。

「何じゃいグチグチと…命に差し障りない物だけにしとったじゃろ「いや、じゃなきゃ困りますよ」
「でも偶に副作用が重い物に当たっちゃう事もあるのよ。お妙ちゃんの卵焼きで相殺して助かった事もあるわ」
「Σ姉上の卵焼きが薬!?」
「毒を以て毒を制すかよ!?どんな劇物だったんだソレ!?」

「何が劇物だって?」

不意に聞こえた新しい女性の声。恭を除く全員が声の主を認識した頃には、既に銀時の頭は壁にめり込んでいた。
恭だけは「ヒッ!?」軽く悲鳴を上げて銀時に駆け寄ったが、他は誰も心配しない。
先程までのシリアスムードをぶち壊し、パンパンと手を払って店内に入って来たのは、新八の姉のお妙。

「…姉上、この店よく来るんですか…?」
「私の使ってる美容液、ここが一番安いのよ。こんにちは乙美さん」
「いらっしゃいお妙ちゃん。もしかして、さっきの話聞いたかしら?」
「ええ。本当に災難だったわね恭ちゃん。後でそのクソパーマから慰謝料ふんだくってやりなさいね?」
「は、はぁ……あの、すいません。たくさんの人に心配掛けてるみたいで…」
「貴女の所為じゃないんだから、気にしなくていいのよ。それにしても丁度良かった」

銀時に向けていた般若のような顔とは打って変わって、お妙は恭に優しい笑顔を見せる。
恭も安心したように笑顔を返したのだが、次に目にした物によってその顔も凍り付いた。自分の前にそっと差し出された綺麗な重箱の中には、禍々しいオーラを放つ黒い塊。

「………な、何ですかコレは……暗黒物質(ダークマター)?」
「卵焼きよ。恭ちゃんの好きな醤油味にしたの。食べれば何か思い出すかもしれないわ」
「…へ、へぇ…私って卵焼きは醤油派やったんですねぇ。新しい発見しました〜…」
「恭さンンンンン!現実逃避しないでェェエエ!」
「思い出すどころか全部吹っ飛ぶわ!逃げろ恭!その魔導式ボディに捕まんじゃねぇぞ!」

「何だと貴様ァァ!お妙さんの手料理にケチ付けるとはいい度胸だ!手討ちにしてくれるわァァアア!」

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