青そら | ナノ
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▽ 3

「異世界から来た?私が?」
「はい。僕らも最初は驚いたんですけど、その変わった服とか持ってた生徒手帳とか見たら、信じざるを得なかったんですよね…」
「はぁ…」

体は軽傷だった恭は、その日の内に退院した。お登勢が用意してくれた着物を着て、血で汚れた制服は持って帰っている。
恭の話といえば異世界説が最も印象的だと思い、新八が帰り道で説明する。
案の定恭は信じられないという顔をしたが、手にした制服を見るとそれ以上何も言わなくなる。
万事屋に到着し銀時が此処が家だと言うと、恭はまじまじと看板を眺めた。
“万事屋”が読めないと言う彼女に、本当に忘れてしまったんだと再確認させられる。

「よろずや、銀ちゃん…此処に居候してたんですか?」
「ンな言い方すんなよ。お前もちゃんとメンバーの一人なんだからよ」
「万事屋っていうのは、頼まれれば何でもする、所謂何でも屋みたいなもんです」
「何でも屋…アカン、何も思い出せへん…」

米神を親指で揉んだり目をきつく瞑ったりして考えに耽る恭。しかし一向に答えは出て来ない。
新八が説明を加えようとしたが、そこで神楽から要らぬ事を口走った。悲しい事に事実だが。

「まぁ、銀ちゃんは何でも屋っつーか殆ど何もやってないや。プー太郎だったアル」
「プぅぅ!?この人この年でプぅぅぅ!?」
「おまけに年中死んだ魚のような目をして、ぐーたら生きる屍のような男アル」
「家賃も払わないしね」
「あ、それを言うなら給料もくれてません」
「アト、オ登勢サンノオ金強奪トカシテマシタヨネ」
「それはお前だろーが!!」

銀時の愚痴が増えれば増えるほど恭の銀時を見る目がどんどん遠くなっていく。最早会話の主旨から離れていた。
そう言えば、とふと新八は思う。
今まで恭が銀時に文句を言った事など殆どなかった。一人せっせと働いていた気がする。だが記憶を無くした今、隠すことなく銀時に非難の視線を送っている。
本当は胸の内では思う事があったのに、それを我慢していたのではないだろうか?
本当は自分達も恭について知る事がたくさんあるのではないだろうか?

「江戸の街ぶらりと回ってきな。この子も意外に江戸中に知られてるからね、きっと記憶を呼び覚ます切欠も見付かるさ」

お登勢のこの案に乗ったのも、半分は自分の為だったりするかもしれない。


   *  *


「何?記憶喪失?それは本当か?何があったか詳しく教えろ恭」
「だから記憶がないって言ってるでしょーが」

昼下がりで賑わう街を歩くこと数十分。
如何わしい名前の店に近付いたところで「うわっ」と恭が声を上げた。3人が目線を追うと、白いペンギンのような物体と並んで客引きをする見知った人物がそこにいた。
攘夷志士で指名手配犯の桂小太郎である。

「つーかヅラ、おめーンな所で何やってんだよ?」
「ヅラじゃない、桂だ。国を救うにも何をするにも、まず金が要るという事さ…あっそこのお兄さーん!ちょっと寄ってって。可愛い娘いっぱいいるよー。そうだ恭、お前も働いてみるといい。お前ほどの容姿なら楽して稼げる。嫌な事など忘れられるぞ」
「これ以上何を忘れさせるつもりだァ!?おめーみてーなバカに期待した俺もバカだったわ!」
「バカじゃない、桂だ!」

ギャーギャーと騒ぎ出す銀時と桂。しかしその横にいた恭はすたすたと店の入り口に向かって行く。今回は銀時に賛成である新八は慌てて止めに入るが…

「何か思い出せそうな気がする…私行ってみぎゃぷッ!」
「待たんかぃぃいい!」

危うく怪しい道に反れかけた恭の頭を一発叩く。彼女相手に手を出すのは初めてかもしれない。新八が自分のした事にしまったと思ったのも束の間、途端に恭はハッとしたような顔で米神に手を当てた。

「あっ!今ので何か来そう!何かココまで来てる!」
「本当か!思い出せ恭!お前は俺や銀時と同じ攘夷志士として今尚街を駆ける英雄だったんだ!」
「オイぃぃぃ!!記憶を勝手に改竄するなぁぁぁ!!」
「そしてさり気に勧誘すんなぁぁぁ!!」
「どの辺アルカ?どの辺叩かれたら記憶が刺激された?ここアルか、ここか?」

思い出せそうな雰囲気の恭を見て、今度は神楽が彼女に手を上げた。神楽の場合は容赦がない。恭の後頭部を立て続けに殴り続けている。そこに桂とエリザベスも加わり、まるで集団リンチのような絵面になった。
「ギブギブ!」という恭の声は届いていないらしい。その騒ぎに何事かと周囲に人だかりができ始めた。事が大きくなる前にと、銀時と新八が止めに入ろうとした時だった。

「か〜〜つらァァアアア!!」
「!?」

―ドゴォォン!!

聞き覚えのある怒声と共に、パトカーが桂目がけて突っ込んで来た。銀時達も野次馬も運よく怪我はなかったが、その後桂の手によってパトカーが爆発し野次馬は逃げていく。
桂とエリザベスは逃げ出し見慣れた姿の警察2人がそれを追っていくと、そこに残されたのは…

「恭ちゃん!」
「……っ…」

炎上するパトカーのすぐ傍で蹲る恭と、そこに駆け寄る3人。心なしか、カタカタと震えている気がする。
銀時が肩を擦ってやると、俯いていた顔を3人の方に向けた。その眼は、何かに怯えていた。

「…わ、わた…私…く、く…」
「おい恭、大丈夫か?」
「く…車…こわ、怖……っ!」
「!?恭ちゃん!」
「恭さん、しっかりして下さい!」

ふっと気絶してしまった恭。銀時が軽く揺すり、新八と神楽が声を掛ける。
程なくして恭は瞼を開いたが…――

「あんたら…誰?」

ふりだしに戻った恭に、3人は絶句するしかなかった。

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