青そら | ナノ
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▽ 2

恭が交通事故で病院に運ばれた。

その知らせを聞いた新八は、大江戸中央病院の廊下をひたすら走っていた。受付で教えてもらった通りの病室の前まで来ると、銀時・神楽・お登勢・キャサリンが既に駆けつけている。

「みんなァァ!!恭さんは?恭さんは大丈夫なの?」
「病院でデケー声出すんじゃないよ、バカヤロー!」
「オメーもな、ババア!」
「オメーモナ、クソガキ。ソシテ私モサ!」
「………」

女性陣は元気そうだが、銀時の顔色が良くない。一緒に出掛けていたため、何かあったに違いない。「心配いらんよ」と、銀時の代わりにお登勢が話を切り出した。

「打ち所が良かったらしくてね、命に別状はないってさ。ま、これが銀時なら見舞いにも来ないだろうよ」
「ジャンプ買いに行って、恭ちゃんに語ってる時に脇見運転やったらしいネ。いい年こいてそんなん読んでるから、こんな事故起こすアル」
「コレヲ機会ニ、少シハ大人ニナッテホシイモノデスネ」
「全くだ」

その言葉を聞いて、新八は安堵した。恭が無事ならそれが何よりだ。
治療費は撥ねた車の運転手が払うし、銀時の戒めにもなって、寧ろ吉に転じたと言っていい。怪我の功名である。
そうこうしていると病室のドアが開き、「入ってもいい」と医師の許可が出た。
そこでいの一番に駆け込んだのは、先程まで項垂れピクリとも動かなかった銀時だった。

「恭っ!」
「…?」

見事な瞬発力で入って行った銀時に続いて4人が中に入ると、そこにはベッドから起き上がっている恭がいた。何時もお下げの髪は下ろされ、頭には包帯が巻かれていて酷く痛々しい。
真っ黒な眼が、薄ぼんやりと銀時達を見詰めている。銀時が恭の両肩に手を置き頭を下げる。

「恭、悪かった!俺がちゃんと運転してりゃ、こんな事にはならなかったのに…ホント悪ぃ!」
「………?」
「何だィ、全然元気そうじゃないかィ。よかったよ」
「アホノ坂田、オメー本当反省シテンダローナ」
「大丈夫アルカ恭ちゃん!もう銀ちゃんと2人でお使い行っちゃダメアルヨ!」
「心配しましたよ、恭さん…エラい目に遭いましたね」

口々に恭に声を掛ける5人。だが恭はずっと黙り込んでいた。
不審に思った新八が「恭さん?」と呼ぶと、漸く彼女の唇が開き――

「誰?」
「え?」

「貴方達一体誰なんです?私の知り合いやったりするんですか?」

衝撃的な言葉に、暫く誰も声が出なかった。


   *  *


「「「「「い"い"い"い"い"い"い"!!記憶喪失!?」」」」」

病室に響き渡る5人の驚きの声。思いの外煩かったらしく、恭は鬱陶しそうに眉を顰めた。5人を叱咤する事もなく、医師は恭の病状を説明する。

「ケガはどーってことないんだがね、頭を強く打ったらしくて。その拍子に記憶もポローンって落としてきちゃったみたいだねェ」
「落としたって…そんな自転車の鍵みたいな言い方やめて下さい」
「事故前後の記憶がちょこっと消えてるってのはよくあるんだがねェ。彼女の場合、自分の存在も忘れてるみたいだね…ちょっと厄介だな」

背中に何トンもの錘を背負わされたようなじわじわとした恐怖が、銀時の中を支配した。
自分の不注意が、彼女の内部にとんでもない重傷を負わせてしまったのだ。

「オイ、アホノ坂田!オメー万事屋唯一ノ常識人ニ何シテクレテンダ!元ニ戻ラナカッタラタダジャオカネーゾ!」
「キャサリンさん、今そんなに銀さんを責めないで下さい。っていうか唯一?僕も常識人とされてないんですか!?」
「ひッ!妖怪猫娘!?こんな老け顔やったっけ!?」
「オマケニキャラ変シチマッテンダローガァァ!」
「恭ちゃんに近付くなヨ猫ババ妖怪!大丈夫アルヨ恭ちゃん!こんな奴私が一発昇天させてやるネ!」
「ナンダトクソガキィィ!ヤッテミロヨコルァァアア!」
「おい鬼太郎、気を付けろ。奴の弱点はあの耳だ(裏声)」
「神楽ちゃん病院で暴れないで!キャサリンさんも叫ばないで下さい!他の人に迷惑だしカタカナばっかで読み難いです!ってか恭さんうまっ!目玉オヤジの声真似うまっ!そんな特技持ってたなんて知らなかったんですけど!」

新八のツッコミが炸裂する。フォローに入ってくれる恭がいないため、何時もより大変そうだ。
そんな中、何時ものだらしなさが無い銀時は焦った様子で医師を見る。その様子がお登勢には「何とかしてくれ」と言っているように見えた。その視線を感じ取ったのか、医師は説明を続けた。

「人間の記憶は、木の枝のように複雑に絡み合ってできている。その枝の1本でもざわめかせれば、他の枝も徐々に動き始めていきますよ。まァ、焦らず気長に見ていきましょう」

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