青そら | ナノ
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▽ 3

「恭、そこの緑の瓶取ってくれんか?」
「はーい!」
「恭ちゃん、これ包装してくれるかしら?」
「直ぐ行きます!」

まさかこんなに忙しくなるとは…。え、そんなにこの店有名なん?薬やら雑貨やらお菓子やらいろいろ売ってるから、まぁフリマみたいな感じなんかな?さっきからレジに回ったり商品の包装したりと走りっぱなしや。
頑張れ負けるな恭。後ちょっとで休憩やから、それまでの辛抱や。

「すいやせーん、ガリガリ君ソーダ一本お願いしやーす」
「はーい!恭ちゃん、おねがーい!」
「すぐ行きまーす!」

アイスコーナーからキンキンに冷えたガリガリ君を取り出して店の前に出る。
と、其処にはフランクフルトを銜えた総悟がおった。あれ、イカ飯じゃなくて?

「あれ?恭じゃねーかィ。こんな所で何してんでィ?」
「バイト。総悟は?仕事せんでええの?」
「何言ってんだ、ちゃんと見廻りって仕事してんだろーが」
「めっちゃ遊んでる様に見えんねんけど…」
「これは小腹を満たすための食糧でィ」
「……そーですか…」

まぁ、そういう事にしといたるわ。代金も貰って店に戻ろうとした時、総悟が「あ、そうそう」と何でもなさ気に私の後ろから話し掛けた。

「恭も気を付けた方がいいぜィ。何か今日の祭り、とんでもねェ奴が来てるらしーから」
「とんでもない奴?(←知らないフリ)」
「高杉晋助って言ってな、攘夷浪士の中で一番過激な野郎なんでィ」
「…その人がかぶき町に来てるん?」
「らしいぜ。しかもこんなデカい祭りやってんだ、将軍の首狙ってこの辺りウロついてるかもって話でィ」

大正解です。でも捕まえられんかってんな、あんなに堂々と歩いてたのに。
それだけ言うと、総悟は「気を付けなー」と残して立ち去った。
高杉か…会いたいような会いたくないような……とりあえず、私も休憩時間に入らせてもらお。
それからも、見廻りと称して遊んでる真選組の人達と出会ったりしながらその辺を回った。
あの騒ぎが起こってからじゃお祭り楽しめへんもんな。今の内にお菓子一杯食べとこ。
そうやって何も考えずにブラブラしてたら、何時の間にか人気のない静かな所に来てた。
遠くの方で花火の上がる音が聞こえる。うわーあんな派手なん初めて見た――

―ドォォオオン!

………それどころちゃうかった。
え、めっちゃドンドンいうてんねんけど。音と震動がハンパないねんけど。人気のなかった此処も、逃げる人達で一杯になってきてる。私も逃げた方がええ?
とか思ってたら少し離れた所に新八が見えた。ちょっと走ったら合流出来るかも。
そうと決まったら即行動。逃げる人達の流れに逆らって明るい方へ走った。

「…っ……ちょ、すいません…!」
「っせえ邪魔だ!何で逆走してんだ!」

でもさっきからあちこちでこんな感じのやり取りで殆ど進めてない。余りのじれったさにイライラしてきた。辛うじて新八が見えてるけど、このままやと見失う…。

「っぷ…ちょっ、ホンマに……あ"ああああ鬱陶しい!マジ退けやぁああ!!」
「ブフォォッ!」

勢い余って知らん人殴っちゃったけど気にしてられへん。新八の頭を見失わんようにしながら、私は有りったけの力で走った。

…せやから気付かんかった。
空っぽになった屋台から、煙管片手に私を見る“誰か”の存在に………。


――――――――――
―――――――
―――――

「……なんだってんだよ、どいつもこいつも……」

私がステージに着いた頃には、もう事は解決してた。え?私いいとこナシやん、感動シーン見損ねたし。
でも、存在を忘れ去られるってお約束はなかった。(あったらあったで悲しいけど)
近寄って来た私に皆気付いてくれて、銀さんは何も言わずに頭をポンポン撫でてくれた。

「どうしろってんだよ!?一体俺に、どーやって生きてけっていうんだよ……!」

涙を堪えた悲しげな声に、こっちまで胸が苦しくなる。
自分より長生きする筈の子供に先立たれた親の悲しみってどんなんやろう?今頃私の親もこんな気持ちになってんのかな…?
すると銀さんは「さーな」って言いながら夜空を仰いだ。
そして紡がれる言葉は、沈んだ気持ちを何処かふわっと浮かせる言葉。

「長生きすりゃいいんじゃねーのか…?」


   *  *


「乙美さん、浴衣ありがとうございました。すぐ返します、今クリーニングに出してますんで」
「あら、あれは恭ちゃんにあげたのよ?私はもう着れないから、貴方が持っててちょうだい」
「!ありがとうございます…」
「いえいえ…?あらおじいさん、どうかしたの?」
「…いや、何でもないわい。恭!配達14件、早速行って来い」
「(ゲッ、そんなに?)わかりました、行って来ます」
「全く、何時まで自転車で行く気じゃ?さっさとバイクの免許取らんかい」
「朝っぱらから恭ちゃんに配達押し付けといて何ナマぬかしてんだクソジジイ!」
「ぐはッ、乙美!わ、ワシはコイツの労働のスキルアップを考えて…――」
「勤務中に昼寝する奴に言われたくないわボケェ!まずお前がスキルアップしろォォ!」
「ぶべらぁァァアッ!」
「(もうツッコまねーぜ乙美さん…)…いってきまーす」

もうこれは99ドラッグでの普通の朝のやり取り。十さんの叫び声をBGMに、私は自転車の鍵を開ける。配達物とリストの確認をし終えて、もう一度2人に声を掛けようとした。

―ゾクッ…
「……!?」

突然背中を悪寒が走る。物凄く誰かに見られてる気がして、思わず私は辺りを見渡した。
…何も異常のない、朝のかぶき町の風景。
気のせいとはとても言い難いけど何もないならそれでもええかと、今度こそ私はペダルに足を乗せた。

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