青そら | ナノ
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「今井、ちょっと来い」
「?はい」

総悟と別れた後、俺は今井をもう一度道場に呼び出した。一週間経った今も、相変わらず俺とあいつの関係はギクシャクしたままだ。職業柄、身元不明の奴を完全に信じるわけにゃァいかねーしな。
あれ以来今井はあまり異世界の話をしなくなった。当たり前だ、異世界なんざ信じろと言う方が無理がある。本当なら本当とハッキリ分かればいいが、残念ながら分かる術は何処にもねェ。
だから俺は強行手段に移る事にした。拷問は近藤さんが許さねェからできねーが、こいつも素人なりに一週間刀を握ったんだ。ここに入るとはどういう事か、もう解るだろ?

「入れ」
「…失礼しま――!?」

今井が道場に入るなり、俺は奴の喉に竹刀を突き付けた。


   *  *


「ひ、土方さん…?」

土方さんに道場に呼び出され、中に入るや否やこの状況。竹刀やから痛くはないけど、向けられる視線は凄く鋭くて痛い。ピリピリってゆうか、ビリビリ来る。
この目を見る度「ああ、やっぱ私信じてもらってへんねんな」って思う、今更やけど。
総悟や山崎さんとまさかあっこまで仲良く出来るとは思わんかったけど、ここまで冷たい態度も寂しい。近藤さんみたいにとは言わへんけど、せめて普通に会話できるくらいにはなりたいな。何でってあの二枚目の土方さんやで?
そんな感じでぐるぐる考えてる内に土方さんはどっかに歩いてったかと思うと、私に向かって何か放り投げた。慌てて受け取ると、それはさっきまで私の喉に向けられてた竹刀。

「…え?」
「『もう一本』って面してただろーが。オラ構えろ」

そう言いながら竹刀を中段に構える土方さん。それは相手したるってこと…?
え、今まで私のこと見てるだけで会話すらまともにしてくれへんかった土方さんが?
けど何でやろう?どういう風の吹き回し?私の事敵視してたんとちゃうの?

「…来ねェならこっちから行くぞ」
「!!」

条件反射で竹刀を前に出すと、ビシィッって大きな音がした。私と土方さんの竹刀がぶつかり合ってまだギチギチ言うてる。
土方さんは暫く私を睨んでから、私を突き放すように押して間合いを取った。
反動でよろけたけど、直ぐ態勢を立て直して土方さんに突っ込んでった。
頭目掛けて竹刀を振り下ろすと簡単に防がれた。
怯まず次は右肩を狙う。これも簡単に防がれる。今度は左肩へ。防がれる。
打つ、防がれる。打つ、防がれる。打つ、防がれる。これの繰り返し。
でもこれでええ。攻めて攻めて攻めまくる。反撃の暇を与えない。
竹刀を持つ自分の手がジンジンしてるのも無視。
土方さんがしようとしてんのは総悟とやったような稽古じゃない。試合や。
相手から一本取るか取られるか。それをしに、ここに私を呼び出したんやって今なら分かる。
私にやって意地がある。せやから私は、持ってる力を全部土方さんにぶつける。
大事なんは勝敗じゃなくて如何に力を全部見せられるか。
ここで全力を出し切らんと負けな気がする。土方さんにじゃなくて自分に負ける気がする。

…ああ、何か部活の試合に似てるな。この緊張感とか、必死加減とか。
ツーアウトでバッターボックスに立った時の緊張感。競射で自分が一本中てれば勝負が決まるって時の必死加減。
失敗したらどうしようっていう恐怖がデカいけど、何処かゾクゾクとした楽しさを感じる。
今こうやって竹刀をブンブン振ってるこの瞬間が物凄く楽しい。こんな感覚、久し振り。

「……いい顔だな」
「へ?」

どれ位時間が経ったやろう。気が付いたら私も土方さんも汗だくになってた。
何度目かの鍔迫り合いの時に、ふと土方さんがそう言った。真っ直ぐ私の眼を見てニヤリと笑う。
あれ?土方さんが笑うとこ、私初めて見たかも。いや生での話しやけどな、ナマの。
夕日を浴びたその顔は汗で所々光ってる。肩を上下させながらニヒルに笑うその様は…――

「(やっば、色っぽ……)」
「?隙できてんぜ」
「!ぅわっ!」

見惚れてる内に力が緩んでしもたらしい。すかさず土方さんは私を突き飛ばした。
予期せぬ攻撃に、私はその場に尻餅を付いた。慌てて上体を起こすも、既に目の前には竹刀の先。

「勝負あったな」
「ま、参りました…」

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