青そら | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
▽ 3

終わってから気付いた。何時の間にか俺はこの試合を楽しんでいる。
始めはこいつを試すつもりで誘った筈だったが、余りに巧みに攻めてくるものだからつい夢中になっていた。
思いの外今井は上達が早く、平隊士となら互角にやり合えるんじゃねーかと思う。
何より惹きつけられたのは、あの眼。
日本人でも珍しい真っ黒な瞳の中に、真っ直ぐな何かが見えた気がした。
こいつなら信じてもいい。そう思わせる、曇りのない眼だった。

「……信じてやるよ、お前の話」
「!…え?」
「異世界だとか神だとかの話。確証はねェが探りを入れるのは止めてやるっつってんだ」

今井の腕を掴んで立たせてやりながらそう言ってやった。
異世界の話が本当だって証拠も嘘だって証拠もねェ。だが、今井恭という人間なら信じてもいい。
そう言ってやると、今井の目が少し細くなった。俺に初めて向けた笑顔だ。

「ありがとうございます」
「…稽古にゃァちゃんと来いよ」
「はい。あの…また相手してくれますか?」
「お前の指南役は総悟だろーが…まあ、暇だったら見てやるよ」
「はい。これからもよろしくお願いします」

綺麗に礼をする今井。表情の少ねェ奴だが、心なしか嬉しそうな顔に見える。
そこへ、いきなり第三者の声が入って来た。

「指南役なんて御免被りまさァ。恭と俺ァトモダチなんでね」
「!総悟テメー仕事はどうした!?」
「終わりやした。土方さんが恭を連れてったって聞いて心配して来たんでィ」
「どういう意味だコラ」
「そういう意味だコラ。ムッツリスケベな土方さんが恭を襲ってねェかと」
「総悟ォォオオオ!!」
「そ、総悟!土方さんは私の稽古に付き合ってくれただけで、変な事は何も起こってへんよ!」

一遍痛い目に会わせてやろうとしたところで今井が仲裁に入った、チッ。総悟のヤロー、年が近い所為か随分と今井に懐いてやがる。
友達、か…そう言やこいつァ昔から年上に囲まれてばっかだったからな。子供扱いされずに済む相手が見付かって嬉しいのかも知れねェ…。

「おっ、恭ちゃん。やっぱり此処にいたか!」
「すいません近藤さん、長居してます」
「いやいや構わんよ!と言いたいところだが、さっき万事屋から電話があってな。『とっとと帰って来い』だそうだ」
「え〜まだいいだろィ。もうちょい居ろやー」
「おい、今井に乗るな。潰れる」
「ヤキモチですかィ?」
「てめぇ」
「俺もそう言ったんだが、何でも仕事があるらしい。新八君が言ってたから間違いないさ」
「わかりました。じゃあ今日はこれでお暇させていただきます」
「…送ってやる」

俺がそう言うと、その場の全員が驚いたような顔で俺を見た。まぁ俺の今迄の今井に対する態度を見てたらそうなるか。
今井は心底驚いているし、近藤さんは嬉しそうな顔になった。総悟はニヤついている。
ぜってー笑いの種にするつもりだ。チキショー後で覚えてやがれ。


――――――――――
―――――――
―――――

「あの…今日はいろいろありがとうございました」
「構わねェよ、俺が好きでやってんだから」

パトカーの助手席で、今井は申し訳なさそうに縮こまっていた。
迷惑だなんて一言も言ってねェだろーが。もっと堂々としてりゃいいものを…。

「…お前、総悟の事どう思う?」
「!えーと…時々怖いしスキンシップ凄くて恥ずかしかったりしますけど、一緒にいて楽しい人やと思いますよ?」
「あいつにとってお前という存在は新鮮なんだ。何せ同年代で話せる奴なんて今迄いなかったしな。…まあ、俺が言うのもアレだが…これからもあいつと仲良くしてやってくれや」
「…はい」

笑って答えた今井の顔は少し複雑そうだった。
そう言や、こいつは妙に他人と距離を置く癖があったな。俺だけじゃねェ、近藤さんにも山崎にも総悟にも。そんな今井にゃ、少し強引な頼みだったか…?
そう思ってる内に、万事屋の看板が見えてきた。扉の前に赤い服と白い巨体が見える。チャイナ娘とデカい犬だ。今井が車から降りると、強烈なタックルがあいつを出迎えた。

「恭ちゃん、お帰りヨ!」
「うぐッ!た、ただいま神楽ちゃん…」
「大丈夫アルカ?ゴリやサドやマヨチンに何もされてないアルカ?」
「マヨチンって何だマヨチンって」
「マヨラーとニコチンの融合アル」
「卑猥やからやめて!?土方さん、送ってくれてありがとうございました」

腹を痛そうに擦りながら、今井は俺に何度目かの礼をした。
だからそんな堅苦しくしなくていいだろーが、しょーがねーなァ…。

「早く刀ぶら提げたかったら、さっさと上達しやがれ…――恭」
「!?」

案の定目を見開いて驚く今井…いや、恭。何時か呼ぼうと思っていたが、丁度タイミングがよかった。
チャイナ娘が訳が分からないと言うような顔をしているのを尻目に、俺は車を出した。
トモダチなんてこっ恥ずかしいモンは無理だが指南役にだったらなってやるぜ、恭。

(恭ちゃん、何赤くなってるアルカ?)
(…いや…なんでもないよ…ところで、仕事って何?)
(カッパネ!みんなでカッパになって頭の寂しい奴を退治するネ!)
(………(ストーリー知らんかったら全然分からん説明やな…))



NEXT

妖刀についてわーわー書いてるけど、別にそんな深い話にするつもりはないです。
土方さんは暫く疑うだろうなと思ったんでワンクッション入れただけの回。

prev / next

[back to list]