青そら | ナノ
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「…いい加減、素直に吐いたらどうだ?」
「……さっき素直に話しました本当の事」
「ふざけんな、あんな冗談笑えやしねー。一体何処のネズミだ?」
「だから、何処のでもないですってば」

取調室にて。恭と土方は向かい合うように座っていた。
土方は煙草に火を付けながら、舐めるように恭を見ている。恭も眉をしかめながら土方を睨み上げている。灰皿には既に3本程の吸殻が入っていた。

「で、何時までシラを切るつもりだ?異世界の次は未来から来たとでも言う気か?」
「ドラえもんじゃあるまいし…言っときますけど異世界説は事実です。嘘吐いて欲しいなら今から考えますけど」
「言うじゃねーか。俺も言っとくが、お前みてェな奴を拷問にかけて無理矢理吐かせるのは簡単な話なんだぜ?」
「ご自由にどうぞ。無実の人間拷問したって訴えられたかったら」
「…ほぉ……」

土方のこめかみがピクリと動いた。目が更に鋭さを増す。
恐怖に体が震えたが、恭も負けじと土方を睨み返した。吐き気がする。
確かに刀は持っているが攘夷志士ではない。誤解を解くため異世界説を話したが、全く聞く耳持たず。当然の反応だが、こうも否定されて腹が立たない訳ではない。敬語が疎かになり、銀時達するような接し方もせず、少々横柄な態度になり始めた。
その様子を、山崎がマジックミラー越しにハラハラしながら見ている。鬼の副長と恐れられる土方のことだ。下手をすれば彼女の精神が狂うまで尋問をしかねない。
現に今も凄まじい殺気を放ちながら恭を睨んでいる。今にも刀を抜きそうだ。恭も次第に顔が青くなってきている。時々苦しそうに咳をし始めた。

「いい加減吐いちまえよ、楽んなるぜ?」
「ゴホッ…そうですね。洗い浚い吐いたんで、そろそろ楽にさせて欲しいんですけど」
「…副長、そろそろ休憩を入れた方が――」
「まだそんな余裕があんのか。いい加減にしねーと血ぃ見るハメになるぜ」

山崎が彼女の心配半分、土方のブレーキ半分に休憩を促した。勿論恭には、山崎の姿も見えなければ声も聞こえない。
土方は山崎の提案を無視し、更に彼女に迫った。そして態とらしく彼女の顔に向かって煙草の煙を吐いた。瞬間、恭の中で何かが切れる音がした。

「ええ加減にせェや!違う言うてんのに!あんた否定する事しか知らんの!?」
「じゃあどうやってンなモン手に入れたってんだ!身元不明なところといい、てめえ怪しすぎ――」
「!ゲホッ!ゴホッゴホッ…うえ゙っ…ッ」
「副長!」

いきなり咽始め吐きそうになった恭に、土方は初めて慌てた。今のタイミングで何にそんなに咽たのだろう。口元を押さえ苦しそうに咳をしている。
よく見ると、顔は真っ青で顔からは冷や汗が噴き出ていた。取調べではよく見る表情だからさして気に留めてはいなかったが。我慢の限界だったらしく、山崎は隣の部屋から乱暴に戸を開けて彼女の方に駆け寄った。彼女の肩を抱くようにして起こすと、そのまま取調室を出て行く。
まだ尋問は終わっていないと言おうとしたが、あのまま倒れられても困るので土方は黙って見送った。

「……ふぅ…」
「落ち着いた?何かごめんね、辛い思いさせて…」
「…仕事なんでしょ?仕方ないですよ…」

実際そう思っていた。攘夷志士検挙のために尋問するのは彼らの大切な仕事だ。一切の情けも要らない。これが当たり前なのだ、たまたま自分が無罪だったから非道さを感じるだけで。
それに、恭の苛立ちは別のところから来るものだった。

「私、煙草嫌いなんです。ちょっと臭うだけでも頭痛くなるんで…」
「あ…それで咽たの?ごめんね気が付かなくて」
「いえ…こちらこそすいません。容疑者やのに、気を使わせて」
「でも君は違うんでしょ?」
「山崎、仕事に私情は持ち込むな」

追って来た土方が鋭い声で釘を刺した。やはり心配だったのだ、山崎が情に流されやしないかと。普段土方や沖田に弄られまくりの山崎も、こればかりはと真っ直ぐに上司を見つめた。

「流された訳じゃありません、完全否定ができないだけです。確かに異世界から来たなんて話、すぐには信じられません。でももしこの子が本当に攘夷浪士なら、もっと上手い嘘を吐くと思いません?」
「………」
「攘夷浪士と断定するには証拠が少な過ぎます。尋問はネタがあがってからでも遅くないと、俺は思うんですけど…」
「…チッ、おいお前…今井、だったな?」
「?はい」
「自分の身分証明になるもの渡せ。場合によっちゃあ信じてやらなくもねぇ」
「!?」

いきなり名を呼ばれ、恭は咄嗟に身構えたが拍子抜けした。あれ程否定していた異世界説を検討する気になったらしい。
どういう風の吹き回しか知らないが信じてもらえるに越した事はない。恭は制服のポケットに入れっぱなしだった生徒手帳を取り出した。それを見た土方は一瞬目を見開き、暫しの沈黙の後に山崎を呼んだ。

「……山崎。役所に連絡して、住民登録に“今井恭”って女の名前調べて来い」
「はい!」
「…嘘だろ、マジかよ…異世界だと……?」

予想外の展開に、土方は眉間を押さえてブツブツ独り言を言い始める。異世界なんて非科学的なもの信じられないが、目の前の事実は覆せない。
彼女の顔写真の横に書かれた生年月日と住所。どちらも自分の記憶に存在しない単語が並んでいた。平成などという元号聞いた事がない。奈良県などという地名聞いた事がない。しかし、その文字は直筆ではなく何かの機械でしっかりプリントされていた。
程なくして、役所との連絡の取り合いを終えた山崎が戻って来た。予想はしていたが、答えは否。認めたくはないが、異世界説がほぼ確定となった。

「……本当にその刀は、そのコクオウとやらに貰った物なんだな?」
「そうです」
「…ハァ…仕方ねぇ、ひとまずあの馬鹿3人の元に返すか…」
「よかったね今井さん!」
「ありがとうございます」

やっぱりこいつ、情に流されてねぇか?嬉しそうな顔をする山崎を見て、土方は不味い物を食べたような顔になった。しかし今更何とも出来ない。渋々土方は恭を連れて似非祈祷師3人を見張っている近藤と沖田の元へ向かった。
戻ってみるとまあ当然と言えば当然、新しい玩具を見付けた沖田がサディスト心を全開にしていた。土方に酷い目に合わされたものの、あの場にいなくてよかったと恭は密かに思った。

「おいトシ、もういいだろ?そろそろ降ろしてやれよ。いい加減にしないと、総悟がSに目覚めるぞ」
「何言ってんだ。アイツはサディスティック星からやって来た王子だぞ?もう手遅れだ」
「!恭ちゃん、すまなんだ!君は悪い子じゃないって信じてたが、仕事柄見逃せないからな」
「気にしないで下さい。なって当然の事です。あ、近藤さんにも話しておきたい事があるんです」
「向こうの部屋に来い、俺も同席する。おい総悟、お前もだ。そしてそいつらいい加減降ろせ」
「チッ……」

沖田が小さく舌打ちするのが聞こえたが、漸く銀時達は解放されたようだ。その様子を尻目に、恭は近藤・土方の後に続いて別室に向かった。少し遅れて沖田もやって来た。

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