常習犯と確信犯




罪と偽善に罪悪感

なんてことはない

いつものことだよ


【常習犯と確信犯】



騒がしいHR時間。

静かな声で淀みなく点呼を取る男の声が不意に途切れた。


「…キサラギ。」

返事はない。

「今日も…遅刻か」

そう呟いて溜め息を1つ。


果たして。
彼の赤い瞳に過ぎった複雑な感情を一体何人が気付いただろう。

もしかしたら彼と長い付き合いの理事長あたりならば気付いたかもしれない。

しかし、この場において、
気付いた者は皆無だった。


「連絡事項は以上だ」


そうして、
彼と生徒の接点は今日も絶たれる。


非常勤として音楽教師を勤めていたが、
突然のA組担任の任命。

なんでも担任を勤めていたシャルア先生が体調を崩したらしい。

まあ、命に別状はないらしいし、仕事熱心な女性だからそのうち復帰するのだろう。

「キサラギが来たら来るよう伝えてくれ」

手短に生徒に伝え、席を立つ。

内心あの問題児をどうしてやろうか、
…そんなことを考えながら。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






カチコチ、カチコチ。

まるで世界が秒針の音だけになってしまったようだ。


「ヴィンセント…先生」


目の前には1人の男。

悠々と頬杖をついて、こちらを睥睨する様は、不謹慎かもしれないが、はっきり言って目の毒だ。

炎を連想させる赤い瞳に映る色は、とても暖色とは思えない程に冷たい。

しかし、それが仮初めのfakeだということをユフィ=如月は知っている。

別に彼は無理に偽っているわけではない。

この教師はユフィにはいつも厳しい。

最初は嫌われているのだと思っていた。

しかし実際は、家がすぐ近くにあったり、何かとお互いを良く知る機会に恵まれ過ぎた為なのだと…今では知っている。

依怙贔屓ではない。

むしろ逆だ。

接するのはお互い最小限。

それでも困った時には頼れる。

基本は非常勤の音楽教師だが
他の教科の課題で泣きついたことも多々
…ある。


他の生徒に比べて親密だし、ルール違反かな‥とも思わなくもない。

それでも、認識の違いに他ならない。最近はそう思えるようになった。

たまたま仕事で知り合った男性が担任教師として赴任してきた。

…それだけだと。


さっきの呼びかけだって名前と敬称の間が空いてしまった。

それはユフィにとってヴィンセントはヴィンセントであって、未だに先生なのだと信じられず…なんと言うか、実感が湧かないのだ。

(ごめんシェルク)

心の中でつい最近仲良くなった彼に憧れているらしい少女に詫びる。


……仕事の姿が鮮烈過ぎて先生として見れないなんて、ね



そんなユフィの思惑など無関係に

結果的にこの教師はユフィには他の生徒より厳しくなる。


しかし、それはそれ。

…彼は真面目なのだ。


「それで…
一体今日はなんで遅刻したんだ…?」


果たして何人が信じるだろう

この青年が世間を騒がせる

『恋人』なのだと



しかし、今回の質問はいただけない。

分かっているはずだ。

…『彼』ならば。

他ならない『彼』なのだから。


「センセの推理はどうなの?」

「質問しているのはこちらだ」

ほら、声音も冷たい

「……夜更かししましたー」


だから寝坊しましたー


そうツマラナく返すと

男はふ、と冷笑を浮かべたようだった

「…そういうことにしようか」

「わかってるくせに…」

そうぼやくと男はワザとらしく首を傾げた

まるで何のことだと言わんばかりに。

しかし、

その態度は次の言葉で打ち砕かれる


「A氏なんかで遊ぶからだ」

「う……わかってんじゃん」


脱力感に襲われてうなだれると頭に優しい手の感触を感じた。


ふわっと彼の空気を感じるのはすぐ傍まで近付いたためか。

…生徒との距離ではない。


つまり『先生と生徒』は
…ここまでということ?

今までの経験上から言って
これから『仕事』だろうか

まさか学校で私事はないだろう


小さく首を傾げると無防備になった方の首筋に吐息を感じた

ピクリと肩が強張る。


何時もならからかいの言葉が降る筈が、
今回はやけに静かだった。

そろりと視線を上げる
と深紅の瞳がこちらを視ていた

あまりの近さに顔に血がのぼる

思わずプイと顔を背けてしまった。

そんな少女にスッと赤い瞳が細められたのだが彼女は気付くことはない

「ひぁっ」

思わず出たと言った感じの声にヴィンセントの瞳は面白そうに揺らめいた。

そうして横を向くことで
さらけ出された白い首筋から耳朶にかけてを口付け舐め上げてみる

「……っ!?」

再び声が出そうになって

口元を両手で覆ってしまったユフィはますます赤面する。


指が吐く息が熱い

喉が震えてしまう


そんな自分を直視出来なくて
ギュッと目をつぶった

そうして心が揺れ始めた自分も

戯れ始めた彼の感覚も遮断する

舌が辿った後の
肌に空気が冷たくて肩が震えた


「…っ、こんな、とこ、ろ、で…っ!!」


語尾が僅かに跳ねたのは
背中に走った快感のためか


まんざらではない反応に
ヴィンセントは薄く笑った


―ギシ、ギシリ

体重をかけたソファーがすぐ耳元で軋む


―…直視したくない

直視できる筈がない



「―…ユフィ」


仕事中には
絶対聴けない呼び方に
反射的に顔をあげてしまった


そうして唇に触れた熱に

髪を撫でる優しい指先に

怯えを戸惑いを溶かされる


「…嫌か?」

遠くで始業のチャイムが聞こえた

ああ、放送の電源も切ったのか

そんな場違いな感想と

もし「嫌だ」と言えば彼はどうするのか…

そんなことをぼんやりと考えて

「例え…嫌でも離さないが」


これは"お仕置き"だからな


含みのある言葉に

背中が粟立ったのも一瞬のことだった





‡そして部屋に―…、猛暑が訪れる‡



4200hit ルルイ様リクエスト

『先生と生徒で禁断の恋(裏風味)』

黒いヴィンセントとのリクエストでしたがイマイチ黒くないような気がします

すいません。
我ながら萌えたリクの筈が難産でした

そう、リクエストを承ったのが6月6日

…今9月。きっちり3ケ月


すいません今からでも土下座したいと…
思わず鈍足さに呆れます

しかも今回はきっちり15禁でkeep

ルルイ様のリクということで『絵画』設定
まずは『絵画』を完結させろとゆー話です(汗)

…がんばります(>△<)/

いつかは裏で補完したいです
(まずは裏ページ作成ですが)

皆様が
ご不快になられないことを切に願います

皆様の
ご意見ご感想をお待ちしております





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