余白の部屋




「ヴィンセント」

「ヴィンセント」

「ヴィンセント」

「……ヴィン…」


「あらヴィンセントじゃない」

「おや…かわいいお客様だね」

その部屋の住人が声をかけるが
彼はあえて聞こえないふりをした

「あ…え〜っと、こんにちは」

ユフィは彼らに挨拶を返した。

「貴女も誘(いざな)われたのね」

彼女が立ち止まってしまった。

「でも、まだ気づいていないわ」

そのとき

既に彼は隣の部屋に半歩進んでいた。

「私はここで気づいてしまったの」

「…何に?」

彼は立ち止まった。

ドアノブに手をかけたまま立ち尽くす。

後ろ手のままで。

「部屋の意味よ」

「そうして逆に、僕達もまた

彼を此処まで誘ったとも言える」

「私はヴィンセントを部屋まで通したわ」

「僕もまた

ヴィンセントの通行を許可したんだ

…此処まで」

「わけ…わかんない」

心細いと全身で訴えかける少女に
彼らは優しい笑みを浮かべた。

「…大丈夫よ」

「故に僕らは」

「「貴女を歓迎する」」


ほら、彼がお待ちかねよ

…いっておいで愛しい娘

優しく頭を撫でてくれた住人に

少女は別れを告げ駆け出した

駆け出しながら

その背中を追いながらも考えた


(なぜ胸が詰まってしまったの?)

(なぜこんなにも苦しいんだろう)

( な ぜ ア タ シ は )

(あたしの居場所は此処ではないと)

( 知っていたんだろう )


もしここが別の場所ならば

彼らの名前をユフィは叫んだだろう

『ルクレツィア・クレッシェント』

『グリモア・ヴァレンタイン』と。



お行きなさい、気付くまで
そこは君の部屋となるから



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