NPC暴走 行動3
何度も訪れている為に見慣れた景色を横目に、スカルラットはひたすら走っていた。ちらほらと、友人であるシュトルツが呼び出したであろうゴブリンの姿が見える。東へ来てから、随分と風が強くなったような気がした。恐らく、彼の魔法だろう。風が吹いてくる方へと走った。少し先の方で、騒めきが聞こえる。またNPCか、と舌打ちをしたくなる気持ちを抑え、ふと思い付いたように思いっ切り地面を蹴って跳んだ。
「《五色:風》!」
杖を振るうと同時にブワッと強い風が吹き付け、そのままスカルラットの身体を前へと吹き飛ばす。そのまま少し高めの木の上に降り立ち、キョロキョロと辺りを見回す。視界の端でチラチラと光が反射しているのに気付きそちらを向けば、金糸と赤が靡いているのが確認できた。
「居た…!」
方向だけを確認し、また枝を蹴って跳ぶ。そこに暴風を加えて、何とか跳べないかとやってみるものの、やっぱりと言うか何と言うか、途中で重さに堪え切れず落下し始めた。
「シュトルツさーん!!!」
落ちながら名を叫べば、彼もそれに気付いたようで。此方を向いて少し慌てている様子が見られる。そして落ち着いたようにシュトルツが剣を振るうと、ふわっと柔らかい風がスカルラットに向かって吹き、落下の速度を弱める。地面に降り立った時には、シュトルツの呆れたような苦笑いが目に入った。
「…もう少し安心できるような登場はできなかったんですか?」
「あっはは…ごめんごめん」
「まぁ、とやかく言うのは後にしましょう。今はこのNPC達を、どうにか」
そう言って見渡せば、既に何人かのNPCが此方へ向かっている。
「スカルさん、彼らの足止めをお願いします。その隙に私が気絶させますので」
「はっ、はい!」
慌てて頷き、スカルラットは杖を振るう。
「《召喚:サラマンダー》!」
杖を向ければ、ボウッと言う音と共に炎が現れ、中から火の精霊が出てくる。精霊はその身体から幾重にも糸を作り出し、NPCが仕掛けてくる攻撃を受け止めた。
「シュトルツさん、後は宜しく!」
スカルラットの言葉と共に、シュトルツがダッと駆け出し、NPCに向けて剣を振るう。《魔法:昏倒》を付与した、その剣を。バタバタと倒れるNPCと、辺りの状況を確認し、シュトルツはふっと息を吐く。
「さて…またゴブリン達に運んでもらいましょう。スカルさんは私の手伝いをしてくれるんですよね?」
「勿論そのつもり」
「なら、もうあんな登場の仕方は止めてくださいね」
「はーい」
苦笑気味にクスクスと笑うスカルラットを見て、シュトルツはやれやれと言った様子でNPCを拘束する準備を始めた。