魔法の言葉


どうしてこんなことになってしまったのだろうか。今となっては全くわからない。
昨日は宿に泊まって、特に変わったこともなく全員就寝したのに。
本当に、なぜこんなことに。
「どうした?ガイ。俺が2位にまで上がったんだ、もっと喜べよ!」
目の前で無邪気にはしゃぐのは、昔懐かし長髪ルーク。もう二度とお目にかかることはないと思っていたのに、今俺の目の前には彼がいた。
正直、更生した短髪ルークと共に旅してしまうと、昔のルークが懐かしくなる時もあった。
あった、のだが。
別に長髪に戻って欲しいとはほんの少しも思ったことはない。
なのになぜ、こんなことになってしまったのか。
「おーい、ガイ?返事しろよ、ガーイ?」
相変わらず呼びかけてくる長髪ルーク。いい加減しつこいぞ。
「ガーイー?」
頬をつねったりだとか頭を叩いたりだとか、本当に子供っぽい。
無視だ無視。そのうち諦めてどこか他を当たるだろう。それまでの我慢だ。
しばらくそうしていたルークは、やがて何かを思いついたように走っていった。
一人息をつく。
「・・・・・・一日でなんで髪が伸びてるんだ」
原因として考えられるのはジェイドあたりだろうか。
まあそもそも、髪の長さで性格が変わるルークが摩訶不思議すぎるんだが。
「もういいか。寝よう。そうだ、二度寝しよう」
一人そう結論づけた俺は、そそくさと部屋に戻ろうとした。
その時、背後から悪魔の声が聞こえた。
「おーい、ガイ!いいもん持ってきたぞ!」
いいもんってなんだよ。何しに戻ってきた。
だが、ここでむげに扱うとあとが怖いので、俺も観念して振り返る。
「なんだよ、いいも・・・・・・の」
結論から言おう。いいものじゃなかった。
振り返った俺の目の前にあった、いや、居たと言ったほうが正しいかもしれない。それは、女性恐怖症の俺には最も辛いものだった。
そう、女だ。
「ご、ごめんなさい。ガイ」
そうやって謝る彼女にも、俺は少し後ずさってしまう。
「謝らなくていいんだよ、ナマエ。ガイも、そろそろ恋人くらいつくる歳だろ。だったらその面倒な恐怖症、なんとかしないとな」
ルークが不遜に言い放つ。
その言葉に、ナマエさんがぴくりと反応した。
彼女はルークのそういう態度に敏感だ。もしかしたら、長年一緒にいた俺よりも分かっているかもしれない。
ナマエさんはルークの襟首を掴むと、無言で引きずっていった。
「な、何すんだよ!おいこら、ナマエ!」
「ルーク。ちょっと向こうで私とお話しようか。ね?」
ちらりと振り返ったナマエさんは天使のような笑みを浮かべていた。
間違いない、あれは。
「完全に、怒ってるな」
「あら、気のせいじゃない?」
ナマエさんはそのままガイも歳かもね、なんて言いながらルークに割り当てられていた部屋に消えていった。
――――――と思ったらすぐに出てきた。
「ガイごめん!」
部屋から出てきたルークは、まず俺に謝った。
予想外の展開に驚いたのは俺の方で。
「な、なんだよ。急にどうした?」
髪は相変わらず長いままだし、外見上は何も変わっていない。
相変わらずごめんと謝り続けるルークの頭をそっと撫でてから、俺はナマエさんに訊く。
「どうやったらこうなった?」
ルークに聞こえないように、極力小さな声でしゃべる。
すると彼女も、小さな声で返してきた。
「魔法の言葉を、使っただけですよ」
微笑んだ彼女は、ルークの方をそっと叩いた。
「さ、もう行きましょう。ルーク」
「ああ。じゃあ、ほんとにごめんな、ガイ!」
そう言って腕を組んで歩いていく二人を見ながら、俺は結局ため息しか付けなかった。
「魔法の言葉って、なんだよ」
誰か教えてください。

魔法の言葉
(え、「おめでとう」って、それだけだよ)

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