私にできるただ一つの仕返し(TOV)


「で、なんで急に人の髪で遊ぶんだよ」
昼下がりに椅子に座って剣の手入れなんかしてるユーリの黒髪を指先でいじっていると、当人からそんな言葉をかけられた。
酷く不機嫌そうに眉をしかめた彼は、それでも私を怒ろうとしない。
「んー、何となく?」
上目づかいにユーリの顔を見ながら、けだるげな声で返す。
もちろん、髪をいじる手は止めない。
「何となくって……ナマエ、お前なぁ」
午後特有の眠そうな声と半目で間延びした声を出す彼に、私はいじる手は止めずに続けて返す。
「まんざらでもないくせに」
小声でつぶやいた言葉になぜかぎょっとした顔のユーリ。
ここで驚かれるのはちょっと予想外だったけど、ラッキーだったのでそこにつけこませてもらう。
「本気で怒らないってことは、まんざらでもないでしょ」
上目遣いとウインクのサービス付きで言う。
気のせいか頬の赤いように見えるユーリは、彼にしては珍しく照れているようだった。
珍だよね、これ。いつも余裕なユーリがほんのちょっぴりだけ頬が赤い。
うん。極めて珍しいよこれ。
「別にそういうわけじゃねぇよ。で、結局何で俺の髪で遊ぶんだよ」
私がニヤニヤしながら見ていると、照れ隠しなのかユーリは私から目をそむけて早口になった。
うむ、成人男性に言うべきことじゃないけど、なんか可愛い。
ユーリの目の前に回って、相変わらずしわの寄っている眉間を見る。
「うーんと、仕返しかな」
「は?仕返し?」
「うん。仕返し」
笑いながらそういうと、何の仕返しだよ、とまた不機嫌そうに顔をしかめた。
「いつも私をからかうのはユーリだし、たまにはね〜」
私がそういうと、彼は不意に剣の手入れをしていた手を止めた。
どうしたのかななんて暢気に構えていると、ユーリが私の頬を両手で挟んだ。
……なるほどね、そういうことか。
ユーリの意図を理解した私は、ここでも仕返しを敢行するべくユーリの頬を両手で挟み返す。
驚いた顔のユーリに微笑むと、そのまま口付けた。
しかし、さすがはユーリで大人の余裕があるのかうまく合わせてきて、結局仕返しになんてならない。
顔を離していつも通り余裕な笑みを浮かべているユーリに、もう一回言ってやる。
私にはこれ以外、仕返しする方法がないみたいだから。
「まんざらでもないくせに」
「うるせぇな」
午後の日の光が、何にしてもへたくそな私と一枚上手なユーリを柔らかく照らしてくれた。


私にできるただ一つの仕返し
(ことごとく失敗するんだけどね)
(俺にかなおうなんて100年早ええんだよ)

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あとがき
はい。地の分入り超短編でした。
展開早くてごめんなさい。ホントに。
読んでくださってありがとうございました〜!
thank you for reading!

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