好みの問題(TOG)


「ある日」というワードが出ると、みなさんは何を想像するだろうか。
森の中でくまさんに出会う、某童謡だろうか?
それとも、ある日に続けて日記でも書くだろうか?
ちなみに私は前者で、「ある日」と言われるとつい歌いたくなってしまう。
そしてこの男は、いつでもこう言うのだ。
「カレーを食べた!」
そう、アスベルとはこういう男である。
「ある日」と言われて「カレーを食べた」という人はあまりいないだろう。少なくとも私はアスベル以外にこの受け答えをする人物を知らない。
「アスベル、ある日カレーを食べたって……それ、だから何?って言われて終わりだと思うけど」
童謡を歌いだすよりもこっちの方が不審者扱いだろう。
大体、アスベルはこの問いでなくても大抵の場合はカレーと答えようとする。
それも甘口でなければならないという、細かい好み付きで。
アスベルの好みは、単体で聞けば珍しくもないし、特に難しいわけでもない。至って普通の好みだ。
しかし、それが毎日でも食べたいと言われると、話は違ってくる。
旅を共にする仲間として、アスベルはとても頼りになるし、少々鈍感ではあってもそれはそれで何とかなるレベルだ。直球に言えば気付いてくれるし。
しかし、カレーに関しては放っておくとこっちまでカレー中毒者になりそうになる頻度で食べたがる。それこそ1日、2日おきのレベルだ。
これをカレー中毒者と言わずしてなんというのだろうか。
「けど、別に言葉はつながってるからいいだろ」
ふくれっ面でそう言うアスベルは、とても18歳でウィンドルを救う手助けをしたり、世界の脅威と戦おうとする勇敢な青年には見えない。
見えなくとも、事実は事実なのだが。
「それはそうだけど、やっぱりもっと何かあると思うんだけどな」
カレーばかり食べてると、健康面にも影響あるかもよ?
私がそういうと、彼はふいと私から視線を逸らした。
「ナマエだって、毎日陰で隠れて甘いもの食べてるだろ」
ぼそっと彼がつぶやいた言葉は、私を驚かせるには十分すぎた。
「え?な、なんで知ってるの?」
「そりゃ、人の枕もとで荷物漁ってたら俺だってさすがに気付くよ」
アスベルの言葉に、昨日までの自分を思い返してみる。
確かに、いつも私が漁ってる荷物はアスベルの枕もとに……あるな。
「だ、だって……別に私が食べるだけだし。アスベルたちに甘いもの食べるの強要してるわけじゃないでしょ。カレーは夕飯だからアスベルひとりの問題じゃないもん」
自分でも言い訳がましいと思う。こんなのは屁理屈だ。
アスベルはまだそっぽを向いたままで、一向にこちらを向く気配はない。
「そういう問題じゃないだろ。甘いものだって食べすぎるとよくないんだぞ」
少々強めの口調で発された言葉は、私に対する忠告というか、注意のように聞こえた。
まるで、そう、なんだかちょっと心配されている気すらする。本人にその気があるかどうかは定かではないが。
アスベルはああ見えて子供っぽいから、さっきの私の言葉に言い返しただけかもしれない。
それでも、この稚拙な言い合いの中でそんな言葉がかけられたのは少し意外だった。
「まあ、それはそうかもしれないけど……」
その言葉を素直に受け取れない私も、まだ子供ってことなのかもしれないけれど。
かといってこの先どう反論すればいいかもわからない。アスベルの発言は的を射ているし、私も言いたいことはすべて言い尽くしてしまった。
私たちの間に沈黙が下りて、だんだんと気まずい空気になってくる。
何かしゃべらなくちゃ、と私が思い始めたとき、意外にもアスベルがその沈黙を破ってくれた。
「あと、言うことあるのか?」
簡単な問いかけに、今度は素直に言葉を返す。
「ないよ。アスベルは?」
聞き返す私に、彼もまた首を振った。
「ない。お互い、好みに関しては人のこと言えないな」
振り向いた彼が苦笑して、私の頭に手を置いた。
あたたかくて、私よりも幾分か大きな手。ひどく、安心した。
「そうだね」
私も苦笑して、小指を立てた。
その動作にアスベルは、困惑したような顔をする。
「これからはお互い、好みについては何も言わないっていうのと、好きだからってそればっかり食べないっていうの。約束ね?」
そう言って小指を立てたのと反対の手で頭に乗っているアスベルの手をとって、小指を絡ませた。
少々強引ではあるけど、これで約束だ。
「ああ。約束だ」
アスベルもそう言って、また私の頭を撫でた。
稚拙な言い合いと稚拙な約束。これが私たちの今の関係。
だけど、いつかもっと大きな実を結ぶといいな。
そのためには、とりあえず「カレーばかり」「甘いものばかり」食べるの直さなくちゃ。
「頑張るぞー!」
叫んだ私の声は、なんだかとても力強かった。
……ような気がした。

好みの問題
(さて、何から始めればいいかな)
(わからなくても、まあ、ナマエと一緒なら大丈夫だな!)
(なっ……)
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あとがき
はい。初アスベルでした。
うん。言いたいことは分かっています。
自分の文才のなさが悔しい……そしてアスベルのカレー好きはあんまり活かせてない。
次はもっと時間かけて書きます。
ありがとうございました!
thank you for reading!

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