落ちていく身体、手を伸ばしても壁は見当たるはずもなくて、ただ浮遊感に身を任せる。
ひゅうっと落ちていく音を聞きながら、目が乾くのも気にせずに見開いていると地に光が射しているのが見えた。
なぜか温かく柔らかな光に安心した自分は乱れる髪も気にせずに指先を光へと伸ばしす。
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日常は何も変わらなかった。勉強は好きでも嫌いでもない。けれど、たまに授業で理解出来なくなる時がある。
参考書がいるからと、久しぶりに本屋に入った。
規則正しく置かれた本とばらばらの背が無理矢理に詰まれた棚が同じ背丈でいくつも並んでいる。
難しい問題と優しい解説が書かれている参考書を見つけようと手を伸ばした瞬間。
あの金髪が目に入った。
漫画のコーナーにずらりと同じタイトルだが巻の違う単行本が並んでいる。
その中の一つに特徴的な金色を見つけてしまった。
『波風ミナト?』
世界は確かに繋がっていた。
紙の上に彼は存在していた。
それも、自分がいた時の世界の中でではなく進んだ時の中、彼の息子が活躍している。
本を手にとり名無しは静かに呟く
――いつか会おう
名無しは手に取った本を買おうとは思わなかった。
また、いつかあの世界で彼に会えるような気がしたから。
end