無職?テンマ

あと一つ。
あと一つだけが、長年どうしても見つからない。

行く先に出会うトレジャーハンター達に頼るも、誰も見つけられない。

石板に記された詩の、在処を。


先日の大嵐とは裏腹に、今日は快晴だ。

昔からこう言い伝えがある。

――天の扉、無理に開かれし時、空は暗雲に覆われる

…なんて、ね。

僕は旅人達が集う休憩所のベンチに腰掛け、なんとなく空を見上げていた。

すると、ギシッ…
僕が腰掛けている木製のベンチが音を立てる。
どうやら空いていた隣に誰かが座ったようだ。

若い少年が、手にした地図を真剣に見ている。

身なりを見るに、トレジャーハンターであろう。

「こっちが……山道で、向こうが、洞窟で……えーっと…」

…訂正。
新米トレジャーハンターのようだ。
まだ若いのに、こんな無職のような……
おっと、失言だったね。
若い者ほど探求心があり、夢追人でもあるのだから。

しかし、新米か。
僕は、隣に座った彼に興味を無くし、手持ちの小さな石板を取り出してそれを見つめる。


天の光、注ぐ地
魔の闇、眠る地
人の無、標す地

その地に建つ宝、世界を繋ぐ鍵とならん


――…そう、この石板には記されている。
僕はこの地を探しているんだ。
二つの地は、目星がついている。あと、一つ……

「!」

そこで、僕は視線に気付き、隣を見た。

「あ、悪い悪い!」

そう言ったのは、僕から見た感じの、新米トレジャーハンターの少年。
僕が手にしている石板が気になるようだ。

「気になるかい?トレジャーハンターくん。その職業の性、かな?」

僕はそう、少年に言う。

「え?あ、いや。珍しい石だなと思ってさ」
「これは、石板さ」

こんな少年に話した所でなんの意味もないであろう。

「へえ……石板かぁ」

少年は石板に書かれた文字に目を遣った。

「これ、なんかの暗号?」
「ああ。きっと、宝の在処じゃないかな?」
「ふーん…」

僕は、少年が手にしていた地図に人差し指を立て、

「天の光、注ぐ地と、魔の闇、眠る地とは、幾つかある神話の中に在る、天の扉、魔の扉を差しているんだろう。ただまぁ、人の無、標す地……だけがわからないんだけどね」
「天の扉、魔の扉…?」

少年は首を傾げた。

「おや?学校で習わなかったかい?」
「あー、ははは。オレ、学生時代、あんまり授業真剣に聞いてなかったんだよなぁ」
「歴史に詳しくないのにトレジャーハンターを?変わってるね、君」
「いや、これにはまあ、色々ワケがあるんだけどさ…」

少年は、別に恥ずかしがるでもなく、困ったように笑う。

「でも、この天の扉と魔の扉の場所とやらは、オレの住んでる町の近くだな……ってことは、これって…」

少年は何か思い付いたように頷く。
それに、僕はまさかな、と、思いつつ、

「何か、知ってるのかい?」

そう尋ねれば、

「オレがしょっちゅう行ってる銅鉱山のことじゃないか?場所的に」
「なぜ?」

まあ、確かに神話にある、天の扉、魔の扉の間にその銅鉱山はあるが…
消去法みたいなものだし、それに、一応ここにも行ったが、別段なにもなかった。
この銅鉱山は、新米向けの、簡易な造りだしな。

しかし、少年は、

「この銅鉱山、新米トレジャーハンターが必ずと言っていいほど訪れるんだ。簡易な造りの鉱山だけど、新米にとっては簡易ではなくて、天候の崩れとかで命を落とす奴も多くて。'人の無'ってのは、亡骸で、'標す地'ってのは、そこに建つ墓標のことじゃねえかな?」

少年の言葉に、僕は目を大きく開き、

「この銅鉱山内に、墓標などあったかい?」
「ん、ああ。実はあるんだよな。荒らされちゃ駄目だから、オレの住む町の住人しか知らないけど」
「……」

僕はそれに、なるほどと、納得した。

なんだ、この少年、役に立つじゃないか。

「ねえ、君。良かったら、その場所を教えてくれないだろうか?」

そう言った僕に、少年は困惑した表情をして、

「あ、いや、しまった…。さすがにそれは…」
「お願いだ。僕の、長年追い求めていた場所なんだ」
「あんたも、トレジャーハンターなのか?」

そう聞いてくる少年に、僕は首を横に振り、

「いや、僕は、そんなんじゃないよ。職のない、ただの無職さ」
「え、でもよ」
「目指すものがあるからと言って、皆が皆、トレジャーハンターなわけはないだろう?」
「…そっか」

それに、少年は躊躇いつつも頷く。

「別にあそこ、宝なんて無いけどなー……墓荒し、とかしないよな?」
「勿論。そんな不道徳なこと、しないさ。それで、どうかな」
「うーん。じゃあさ、オレのパートナーになってくれよ」
「は?」

少年の言葉に、僕は意味がわからない、と、口をあける。

「オレ、まだ新米だからさ、パートナーも居なくて。あんた、無職ならさ、パートナーになってくれよ。その代わり、目的の場所を教えるからさ!」
「……」

それに、僕は、

「あ、はは。無職、ね。君って、失礼な奴だね」
「え、でも、あんた自分で無職って…」
「だからって、そうはっきり言うかい?」
「う……悪い」

少年はばつが悪そうに項垂れる。

「で、パートナーとは、何をしたらいいのかな?」
「!」

僕が尋ねれば、少年は顔を勢いよく上げ、目を輝かせていた。

「えっと、道案内とか!荷物持ち分担とか!」
「……ふむ」

少年の言葉に僕は肩を竦め、

「君ってほんと、新米だね。パートナーの役割、本当に知ってる?それじゃあまるで、雑用係じゃないか」
「そっ、それはー…」

慌てる少年に、僕は微笑して、

「まあいいよ。まずは、墓標に案内してくれ。それから、君が言うパートナーになってあげるよ」
「マジで!?」

少年はニカッと笑い、こちらに右手を差し出してくる。

「オレはジロウ。今年で二十歳になるんだ」

僕は、少年…ジロウの手を握り返し、

「僕はテンマ。歳はまぁ……君と同い年ってことで」

そう挨拶をした僕に、

「なっ、なんだよそれ!まあ確かに同い年っぽい気もするけど…嘘だろそれ!」

ジロウは不服そうに言い、

「君が墓標に案内してくれて、その情報が本当に僕に有益なら、ちゃんと誠意をもって教えてあげるよ。新米くん」
「!!!」

それに、ジロウは顔を真っ赤にする。彼こそ本当に、二十歳になるのだろうか。
まだまだ物凄く子供っぽいな。

「やっ、やっぱ撤回!パートナーなんて……」
「ほら行くよ新米くん」
「うわーっ!ムカつくー!」

まあ、扱い易いな。
それに、悪い奴でもなさそうだ。
そう、僕は思って。

(やっと見つかるのかな?僕の探し物が…)


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