ネクロマンサースケル

カラスが群がっている。

狭い山道に、死体が一つ。

最近じゃあ、洞窟や鉱山での死体が多いが、なるほど、こんな人通りのない山道での死体か。

荷物を背負っていて、見るからに、旅人か何かのようだ。

数ヶ所、体に致命的なナイフで刺されたような痕がある。
なるほど、荷物の中身が漁られているな。
これは、賊にやられたのか。
なんとまあ、不幸だったな。

さて、なんの取り柄も無さそうな死体ではあるが、まあ良い。
何かの役には立つだろう。

「なっ、何してんだ!?」

と、背後から急に驚くような声がした。

「これだから新米くんは…」

更にその後ろから、呆れるような声。

私は声の方に振り向けば、若い男が二人いた。

黒髪の男は明らかに私を不審者とでも思っている形相だ。
後ろの灰色の髪の男は、別にこちらには興味なさげで、逆に、黒髪の男に呆れている様子だ。

死体の前に屈んでいた私は立ち上がり、彼らに向き直る。

「いえ……山道を抜けようとしたところで、この死体を見つけまして。恐らく、賊に襲われたのでしょう。刺し傷が多数、荷物が漁られていますから」

そう、私がありのままに答えると、

「だってさ、新米くん。ほら、行くよ」

灰色の髪の男が、黒髪の男こと新米くんに言うが、

「まっ、待ってくれよテンマ。このまま死体を放っておくわけにもいかないだろ?」
「え?なに?君が供養でもできるとでも?」

灰色の髪の男はテンマという名前らしい。
テンマは再び、新米くんを呆れた眼差しで見れば、

「供養っていうか、埋葬くらいはしてやれるだろ。オレらトレジャーハンターにはそういうの付き物だし」
「他人の死体をどうこうする気が知れないよ。それに、君さ、向いてないよトレジャーハンター」
「なっ!なんだと!?」

どうやらトレジャーハンターとパートナーなのだろうか?それにしても、相性の悪そうな二人だ。

それでいて、邪魔だ。
この死体は一応、私の獲物だと言うのに。

「あの、お二人は何かお急ぎのようですし、第一、発見者は私です。ですから、私の方で埋葬をしておきましょう」

そう、私が言えば、

「ほらね。君はお役御免だよ。行こう」

テンマが新米くんを促す。しかし、新米くんは私の方を見て、

「何かな?」
「あんた、墓荒しとか、死体荒しじゃないよな」

新米くんは私に言った。

「なんだいそれは?」
「墓を荒らして、死体を持ってく奴がたまに居るらしい。まあ、ここは墓じゃねえけど…。あんたの身形、見掛けないもんだし」
「…」

若いとは、探求心がある。正義感がある。
この新米くんとやらは、正にそれが当てはまる。
付け加えれば、妙な勘がある。

ネクロマンサーと言う職業は、陰にある職業。
一般では知られていない職業。

だからこそ、この新米くんは確信を持てない。
核心に辿り着けない。

墓荒し、死体荒しと言う、陳腐な表現しか出来ない。

全く、呆れた話さ。
だから、私は普通の人間みたいに普通に笑ってやり、

「私は、そんな道徳に背くようなことはしませんよ。ちょっと遠くから来ましてね、服装も物珍しいかもしれませんね」
「…」

それでもまだ、正義感、不信感のある新米くんは何か言いたげだったが、

「いい加減にしなよ。行くよ、新米くん」

テンマが新米くんの肩を強く掴んで、

「なっ、なにす…」
「君は本当に新米すぎる。甘すぎる。ちょっと、度が過ぎるとウザいよ」
「んなっ!?」

再び、彼らは揉め始めた。

「それにね、新米くん。この世界には、ネクロマンサーなんて職業もあるんだよ。君の言う墓荒しとか死体荒し発言には笑っちゃうね。もっと勉強しなよ?トレジャーハンターくん?」
「!」

私は、テンマの言葉に心の中で驚く。

「んだよ、そのネクロ…なんたらって」
「まっ、自分で調べることだね。もっと勉強したまえ」

そんなやり取りをしながら、もう、私にも死体にも振り向くことなく、若い男二人は山道を下って行った。


(…あのテンマとかいう男、なかなか面白い肉の塊だな。あのような知識を持つ者の死体ならば、さぞや役立つだろうに)

私はそう思い、ようやく山道に倒れた死体を自分のものにする。
ここで捌(さば)くのはさすがに人目がまたあるかもしれない為、せめて半分に切って、背に背負った鉄で出来た大きめのケースに入れることにした。

古のネクロマンサーは、魔術を使い、死者を操っていたそうだが、現代には魔術なんてものは無い。
残されたのは、法術という、癒しの力のみ。

だから、現代では死者と生者を使い、たとえば、新たな生命を造ったり、たとえば、生者を犠牲にして死者を蘇らせたり……

世界の裏側で、こんなことをしている人間が居るだなんてことを先ほどの新米くんのような正常な人間が知れば、はてさて、世界はどう転がるのか。

まあ、私は陰で実験をするのを好むから、表舞台は興味ないんだがね。


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