ジロウと謎の少女

拝啓、トレジャーハンタージロウです。
って、誰に言ってんだオレは。

オレはヘマをした。
チクショー、やっぱ、トレジャーハンターなんかより、ちゃんと勉強して、まともな職に就くべきだった。

場所は、いつもの銅鉱山。

しかし、途中で天気が崩れた。
生憎の、大雨。

鉱山から出れば、町は、家はすぐそこだってのに。
オレはヘマをした。

軽い崖で、オレは足を滑らせ、右足を派手に擦りむいてしまったのだ。

正直、めちゃくちゃ痛い。血もすげぇ出てるし。

オレはよろよろと立ち上がり、右足を引き摺りながら、よたよたと歩いた…

(ああ、くそう)

オレは悪態を吐き、空を見上げる。
物凄く荒れている……
雷まで鳴っている……

「ん?」

空に、遠くの方に何かが見えて、オレはそれを見つめた。

「白い、光?」

雷とは違う何かだ。
光の中、何かが動いている。

(鳥?)

なんらかの、鳥…だろうか?なんとなく、翼が羽ばたいているのが見えた。

「うわ!?」

…と、いきなり激しい風が吹き、オレは目を閉じる。

「痛っ!!」

それから、風に耐えきれず、オレは右足の痛みに呻きながらその場に尻餅をついた。

「だっ、大丈夫ですか…?」

どこか弱々しいような女の子の声が聞こえて、オレは慌てて目を開ける。

すると、目の前には本当に女の子が居た。
こんな子、いつの間に居たっけ?!
しかも、鉱山内には相応しくないようなワンピースみたいな服だし。
髪を染めてるのか?緑色の髪だし…
それに、どこか……
自分達とは違うような、気品があると言うかなんと言うか…

「え、あ、あぁ。大丈夫、ではないけど…。て言うか、あんた一体?いつの間に…」

そんなオレの言葉を無視して、女の子は、擦りむいて血が出ているオレの右足に目を遣った。

「酷い怪我……まともに歩くには、痛いですよね」

女の子はなぜか申し訳なさそうにそう言って、尻餅をついたままのオレの目線に合わせるように、その場に屈む。

「おっ、おいおい!服が汚れるぞ!?」

ワンピースが地面につき、泥混じりの水溜まりに入り込む。
いやまぁ、すでに女の子自身も雨でびしょ濡れではあるが…

すると、女の子はオレの右足に手を翳(かざ)す。
何をするんだと、オレが首を捻っていれば、オレの右足の傷口を包み込むように、光が湧き出る。

(ほっ、法術師?)

オレはそう思った。
母も法術師で癒しの力を使える。でも、母の使うものとは少し違う気がする…
だって、母は魔力ってのが籠められた水晶を使ってるんだが、この女の子は何も使って……ない?

みるみる内に、オレの傷口はきれいさっぱり塞がった。痛みも、消えた。

しかし。
これってまるで、トレジャーハンターだった父が、法術師の母に出会ったシチュエーションみたいじゃんか。
なんて思って、オレは先日の占い師の言葉を思い出す。

――運命の出会いが訪れるでしょう。


「あ、あの、見ず知らずの奴に、ありがとう」

オレは女の子に言い、

「いえ…。私のせい、みたいなものですから。ごめんなさい…」
「え?」

私のせい?
意味がわからなくて、オレは女の子を見る。

「えーっと、あんた、職業は法術師、なのか?」
「……ほう、じゅつ?」

オレの問い掛けに、女の子は意味がわからないと言う風な顔をした。
え?あれ?法術師を知らない?違うのか?

すると、屈んでいた女の子は立ち上がり、

「…本当にごめんなさい。じゃあ。私、行かなきゃ…」

女の子の顔は、どこか疲れた風だ。

「あ、あのさ、オレはジロウ。まあ、職業名乗るのは恥ずかしいし、まだ新米だが、トレジャーハンターだ」

すると、女の子はまた、不思議そうにオレを見る。

「ジロウ、さん。トレ、ジャー…」

あれ?トレジャーハンターも知らない?
田舎暮らしの子なのだろうか?いや、でも、田舎の方がトレジャーハンターの職に就く奴は多いと聞くが…

「で、あんたは?助けてもらったからさ、何か礼でも…」
「そんなの、気にしないで下さい。私のせいだし……それに、私、急がなきゃ」

一体何を急いでいるのか、一体いつの間にこんな子がこの場に居たのか。
それよりもなんで、この女の子はこんなに暗い表情をしてるのか。
考えても、当然わかるわけがない。

「じゃあ、これ、やるよ。全然、価値なんかないけどさ」

オレは、さっき手に入れた小さな銅を女の子に手渡す。

「…変わった石、ですね」
「銅だからな。そんなんしかなくて、悪いし足りないけど、大怪我を治してくれたんだ。今度もし、急いでない時に会えたら、礼をさせてくれよ」

オレは本当にそう思ったんだ。
はっきり言って、オレは臆病だから、ちょっとした怪我でも人生に希望をなくしちまうタチだ。
トレジャーハンターなんて二度とやるかよ!ってな感じで。
でも、綺麗さっぱり流れてた血も痛みもなくなったから、本当に助かった。

「…こちらこそ、ありがとうございます。あなたの笑顔を見ていたら…なんだか、知っている人に似ていて、元気を貰えました」

そんな女の子の言葉に、やっぱり元気がなかったんだな、と、オレは思う。

「私は…気付けなかったんです。自分の愚かさに。私を見てくれて、本当に助けてくれていた人が居たことに。こんなに遅く気付いても、その人はまだ私を助けてくれて、まだ私を信じてくれている。だから私は…」

まるで、独り言のように呟く女の子の言葉。
はっきり言って、やはり意味がわからない。
と言うか、さっきから思ってたけど、お互い住む世界が違うんじゃね?って感じすらする。
次元が違う。
うん、そんなオーラがある。

「それじゃあ、本当に…ごめんなさい。私、行きますね」

女の子はペコリと頭を下げ、鉱山の入り口へと向かう。
オレはぼんやりと、去り行くその背中を見ていた。

あ、結局、名前も何もわからずじまいだったなぁ。

なんか、夢みたいな一瞬だったし。

それに、大荒れだった天気は静まってきて、雨も小雨になった。
オレはふと、さっきまで女の子が立っていたところを見る。

「羽…?」

女の子が立っていた辺りの地面に、白い羽が1枚落ちていて、オレはそれを拾った。

先程、大荒れの空の中に見えた、白い光の中を羽ばたいていた鳥のものであろうか。

真っ白な、羽。

まさかさっきの女の子は、天使か何かだったのか?いろいろ不思議だったし。

…なーんて。
天使も悪魔も、神話の中の存在だけどな。

オレはこの羽を御守り代わりにしようかと思った。
怪我して、女の子に助けられたこの奇跡の場所で拾ったこの羽を。


――君はもうすぐ夢を持つことになるでしょう
――訪れる、運命の出会いと共に


あの占い師の言葉がこのことだったのかは知らない。
でも、なんだか、世界って、まだまだ不思議なことばかりだなって、オレは今の女の子に出会って思った。

あと、あのカトウ商店とか言う商人の少女も、

――いつかきっと、あなたにとってのお宝がなんなのか見つかるはず!だから、トレジャーハンターって、とっても素敵な職業なんですよ


なんてことを言っていた。

なんか最近、よくわからない女の子たちに助言を与えられてるみたいで、情けねぇな、オレ。今年で二十歳になるってのに…

(夢を持つ、オレにとっての宝…か。探して、みようかな)

この日を境に、オレはちょっとだけ本気になった。

トレジャーハンターって言う職業に対して。


ー19/138ー

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