占術師の末裔レーツ
物心ついた頃から、私にはあるものが視えた。
それは、人間と共に人間ではない白と黒の翼を持った種族が共に暮らしているという、そんな世界。
けれども、仲良く共存していたその種族の仲が違えていき、世界が崩壊していくという光景。
そして、人間だけを救う為に造られた存在。
それらは今、この世界に伝わる〈神話〉と一致した。
ただ、違うのは……
人間だけを救う為に造られた存在、人間の英雄が、とても、苦しそうな、悲しそうな眼差しをしていたということだけ。
ふとした時に私の脳裏にその記憶達は流れてくる…
私の家系はかつての時代で生き残った占術師の末裔らしく、その血筋には記憶が埋め込まれているらしい。
だが、私の中の占術師としての才は、芽生えることはなかった。
かつての時代を生きた祖父母は数年前に亡くなり、かつての時代でまだあどけない子供だった両親は、あまりかつての時代を覚えていないと言う。
私の母が占術師の家系であり、母の遺伝子にかつての時代の記憶が埋め込まれ、そうして産まれた私にそれが受け継がれた。
ーーそれは、かつての時代の争いが長引いた際の保険。
記憶を持って産まれたならば、人々はすぐに事態を受け入れることができる。
しかし、そんな特異なことをしたのは占術師とネクロマンサーの家系だけらしい。
結局、争いは人間の英雄の活躍によりすぐに幕を閉じ、記憶を持って産まれたことにもはや意味はない。
でも、私はこの記憶を別段、鬱陶しく思うことはなかった。
むしろ、気になったのだ。
英雄リョウタロウは本意で戦っていたわけではない。
戦わされていたのだ。
だから、あんなに苦しそうなんだーーと。
気付けば私は成長しながら日々、彼のことを片時も忘れたことはなかったのかもしれない。
この埋め込まれた記憶と共に、私は生きていたのだ。
そして、年頃になり、私は両親の反対を押し切り、独り暮らしすることを決める。
それは、とある小さな村。
今なお英雄リョウタロウが居ると伝えられている、銅鉱山が近くにある村だ。
両親に見合いだなんだを進められ、いつまでも夢物語を追うな、子供じゃないんだからーーと言われてきたが、大人になって尚、私の憧れは消えはしなかった。
そう、私はこの記憶と共に育った。
私はーー……英雄など関係ない。
記憶の中の悲しい眼差しをした、ただの青年に、とっくに心奪われていたのだ。
そうして、私はその村へと移住し、温かく迎え入れられる。
緑豊かな静かな村で、畑仕事などすぐに見つかった。
村に馴染んで数ヶ月ーー私は意を決して銅鉱山に向かう。
もっと早く訪れたかったが、もしリョウタロウが本当に居たら……と考えると緊張が勝った。
暗い銅鉱山を一人進み、村人達に最奥と教えられた、パスワードを入力した先にある墓標の地まで辿り着く。
(…ここには、かつての時代で命を落とした者の墓も建てられたと聞いた。しかし、亡骸はもはやとうに失われ、埋まっていない…)
数多に建てられた簡易な墓標。
私はその場に膝をつけ、祈りを捧げた。
その時、私は不思議な気配を感じる。
まるで、誰かに見られているかのような……
私はゆっくりと顔を上げ、気配のする岩壁を見つめ…
(まさか……もしかして…)
高鳴る鼓動を抑え、一か八か口にして見せた。
「君は…もしや英雄ですか?」
……と。
ーー私は、この生き方を、出会いを後悔することは一生ありません。
なぜなら……