僕がいなくても世界は進む


「単刀直入に言います。妖精王様、僕と結婚しましょう」
「ぶっ!!!!?」

クレスルドの発言に、お茶を飲んでいたラズは盛大に口に含んだそれを吹き出した。
クレスルドはテーブルの上にあった大皿でそれを防ぐ。

「そんなに驚くこともないでしょう、と言いますか、汚い」
「ゲホゲホッ!?お、驚くに決まってるだろ!汚い言うな!!」

何度か噎せた後、ラズはようやく叫んだ。

「お前の冗談は毎回ビビるんだよ!毎回よくもまあ飽きないなぁって、ある意味で感心するけど、そういうのは他でやってくれ!」
「他で…」

クレスルドはしばらく考える素振りを見せ、

「じゃあクリュミケールとかに?」
「は!?駄目に決まってるだろ!カシルが泣くぞ!」
「フィレア?」
「許さん!!」
「レイラ女王とか?」
「NG!!」

散々ダメ出しされ、クレスルドはため息を吐き、

「君が他でやってくれと言ったのに、なんですかそれは」
「お前モテるんだから、せめて僕の知らない人と幸せになってくれ!お前が僕の知り合いとどうこうなるとか考えたらゾッとする!」
「酷い言い様ですね」

クレスルドはやれやれと首を横に振る。

「じゃあちなみに、妖精王様は僕以外で誰と結ばれたいんですか」
「なんでお前基準なんだよ!?」
「僕らは同じ時代に生まれ、同じ時代を知る者同士じゃないですか。僕ら以外、全てを知る人はいないんですよ?話を聞かせたロファースやレムズは別として」
「だからってそれは理由にならないだろ!第一あれだ!男同士だ!」

ラズはクレスルドを指差し、

「僕らはもう魔術だ不老だ永遠だに縛られてないんだぞ!神は心を好きになるってリスクももう無しだ!」

しかし、そこまで言い切ってラズは苦い表情をし、

「いや……だが、なんだ。お前はその、ロファースが好きなんだよな。それを否定するのは、ちょっと言い過ぎか」

と、急に申し訳なさそうに話すので、

「散々、君を騙し裏切った僕にそんな気を遣うなんて、君はやはり人間になりすぎたんですね」

クレスルドは苦笑しながら言った。

「だ、だからお前、もうそういうのはやめろよ。失った過去はもう戻らないしどうとも出来ないんだ。それこそ、お前に幸せに生きろと望んだ彼らや、ロファース、レムズに対する裏切りになるぞ」

ラズは呆れるように言う。

「…はあ。君になら、散々罵られようが殺されようが構わないと決めていたんですけどね」
「!?」

クレスルドの口から出た物騒な用語にラズは驚いた。

「お前なぁ、ロファースやレムズの前でそれ言ってみろよ」
「別に言えますけど」
「おいっ!?」
「だって、僕がいなくても世界は進みますから」
「はあっ?!」

ラズはバンッ!と、テーブルを叩き、

「お前なあ、どうしたんだよ!?今日はネガティブすぎてついていけないんだけど………ってか、なんでこんな真面目な会話になったんだっけ!?」
「だって妖精王様が結婚してくれないから」
「マジか!?マジでそれが理由……」
「と言う冗談は置いておいて」
「やっぱ冗談かよ!!」

いちいちツッコミを入れてくるラズにクレスルドは苦笑し、

「まあ、なんでしょうね。僕がいなくても君の世界が進んじゃうのは、ツマラナイかなと」
「???」

意味を理解できずにラズは眉間に皺を寄せる。

「昔は散々、傍に居たからですかね。君に対する独占欲が残ってるみたいです」
「……散々傍にって…あれはお前が僕を騙して勝手に閉じ込めただけだろ!あの時のお前、本当にイカれてたからな…お陰で僕がどれほど………ああー……思い出したくない……」
「あはは、まあ、君にふさわしい相手は僕が見つけてあげますよ」
「やめろってば!!ああー……もう一生、独身でいいや。このままフィレアと暮らすし…」
「僕も居ますってば」
「頼むからどっか行ってくれ…」

end

6月に書いたのでほんのり結婚云々会話。

2015.6

毒菓子

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