ヒロが再度「一体用件は?」と聞くも、とりあえず雪祭りを堪能してから、とディンは言う。

ヒロはぶつくさ言ったが、実際、雪祭りを堪能するなんて初めてだった。
誰かと一緒に来るのも初めてで。

金魚すくいや住民達が行う劇、出店で何か食べたりーー‥‥なんだかんだで楽しかった。
もし、あの頃に。
ソラとタカサ、ジルク達とこんな風に遊べていたら‥‥ヒロはそんなことを思った。
しかし、

「雪祭りを堪能しようって言い出しっぺのディンさんは、あまり楽しそうじゃないですね?喧嘩したリーネのこと気にしてます?土産でも買って帰ってあげたらいいんじゃないですかね?」

ふと、ヒロが言って。

「実は、本当は今日、リーネと来る予定だったんです、雪祭り」

ディンが言った。それにヒロは驚いた後で、なんとも言えない気まずい表情をして、

「そっ、それは‥‥凄い申し訳ない気分です。それって、喧嘩のせいですよね?」
「まあ‥‥いえ、今日は僕が勝手に用事のついでにヒロさんを誘ったまでですから。ヒロさんは関係ないですよ」

そう言うが、ディンは少し落ち込んでいる‥‥ように見えて、

「ふふ、リーネのこと大事なんですね。彼女の話をする時は、凄く心がこもってる」

ヒロが笑って言えば「え?」と、ディンは言った。

「あれ?なんか失礼な言い方でしたね?!すみません!」

自分の無意識の内の発言に気付き、ヒロは謝る。

「そう見えるんですか?」
「えーっと、‥‥はい、なんとなーく‥‥」

苦笑いするヒロに、

「リーネとは本当の兄妹ではないんですよ」

淡々とディンは言った。
そのディンの言葉に、ヒロはそれほど驚かなかった。
なぜならリーネは自分と同じく施設に居た。
あの場所は家族を失った子供達が集まる場所。その頃、リーネに兄なんて存在はたぶん居なかった。
だから、リーネと先日久しぶりに再会して、ディンの存在を知って、ヒロは不思議に思っていたから。

「兄妹ではない、とは?」
「まあ、サントレイル国の兵士として所属する部隊が一緒だったんですよ。彼女に兵としての戦い方を教えたり、時には悩みを聞いたりして‥‥いつの間にか彼女が僕を兄と呼ぶようになって。僕には、家族なんてものは無いんですよね。だから、本当に兄妹みたいになってたんですよ、周りからもそうからかわれたりして」

そう話すディンは、どこかつまらなさそうだった。

「ディンさんってもしかして、リーネのことが好き?兄妹としてじゃなく‥‥」

ディンはヒロの言葉に数秒沈黙して、

「実のところ、どうだかわからないんです、自分でも」
「ディンさんって、最初に話した時も思ったんですけど、どこか淡々としてるんですよね。でも、リーネのこと話すディンさんは、淡々としてないって思いました。オレって、彼ら‥‥異端者達と暮らしてるから、人の些細な行動や感情の変化とか注意深く見てしまうんです。なかなか、彼らの些細な変化はわかりませんが」

ヘラッと笑ったヒロに、

「さっきから、まるで僕のこと異端者みたいに言ってきますね。今の言い方や、リーネの話をする時は心がこもってるとか‥‥」
「あれ!?いや、そんなつもりは‥‥ないんです。でも、なんだかディンさんは…心の底から話してる感じがしない。それこそ失礼ですが‥‥空しい、空虚って言うか‥‥」

ヒロは腕を組んで言葉を探し(わ、私、どうしたんだろ?なんか失礼なことばかり言ってる)そう思いつつも、口からぽろぽろと言葉が流れ出てしまう。
そんなヒロに、

「仮にーーもし、僕が異端者だったら、ヒロさんはどう思います?」
「え?えっ?おかしな質問ですね。でも、オレはそんなのは気にしませんよ。ディンさんでも、もしもジルク様が異端者だー、ってな話でも、オレはなんとも思いません」
「リーネはどう思うでしょうね?」

それにヒロは眉を潜め、

「彼女は‥‥オレ達が異端者を匿うのを快く思ってない感じでしたから、ちょっとわかりませんね。まあ、こんなもしもの話は置いといて、そろそろ‥‥」

するとディンは小さく笑んで、

「そうですね、そろそろ話をしましょうか。‥‥オルラド国が不穏な動きを見せてましてね。ジルク様は今、それに備えている感じです」

ようやく本題に入る。

「ギルドの依頼にも出ていましたね。オルラド国への潜入調査。やはりまた、戦争が?」

三年前、オルラド国はなんの前触れもなくサントレイル国を攻めた。
日々、戦争道具を開発しては、それを見境なく使い、無意味な戦争を起こし、多くを奪う国。

「まだわかりません。僕はオルラド国には行ったことすらないですし、それに、ほとんどの人間がここ近年のあの国のことを知りませんからね。あんな国で本当に民が生活しているのか、はたまた、実は人間なんて居ませんでした、というオチなのか」
「‥‥人間が居ない?」

ヒロが首を傾げれば、

「ただの仮定です。ただ、ジルク様はまだお若いが王です。体力的にも精神的にも、今は自国のことを考え、民に悟られぬよう気を張っているーーもちろん、ヒロさんにもね」
「そうでしたか。だからジルク様、昨日あんな疲れた風だったのか‥‥」

ヒロはぽつりと言う。

「それと、これはジルク様を好きなヒロさんには酷な話かもしれませんが。これは、絶対誰にも言わないで下さいね、本人達にも‥‥」

ディンの言葉にヒロは顔を上げた。

「生命を繋ぐ魔術を知ってます?」
「生命を繋ぐ?」
「ええ、他者の命と自身の命を一心同体にするんです」

ヒロはそんなものを聞いたことがなくて、目を丸くする。

「今、ジルク様とリーネがその状態なんです」

その意味がよくわからなくて、ヒロはしばらく口をぽかんと開けていた。

「えっ‥‥と?よくわかりませんが、そうなると、どうなんです?」
「命が繋がることにより、力も足されるんです。リーネはとても高い魔術の力を持っていて、ジルク様も王族の血筋故、魔術は高い。そんな二人の力が足されれば‥‥」

ディンがそこまで言って、ヒロは言葉の真意に気付き、

「オルラド国に対抗する力になる?」

そう聞いた。それにディンは頷き、

「そう。でもまあ、それはそれでいいんです。ただ、もしどちらかが命を落とせば、同じ命になってしまったが為、両者とも死んでしまいます」
「え!?」

ヒロは絶句する。

「いったい、誰がそんな?!」
「ジルク様とリーネ自身です。ジルク様がそれを提案し、リーネが協力すると自ら言った。本当に、ここ最近の出来事です。これは当然極秘で、一部の兵しか知りません」

そんな真実に、ヒロは言葉が出なかった。

「そっ、そんな大変な、極秘な話をなぜオレに‥‥」
「知っていたら‥‥いざという時、ヒロさんはジルク様を助けてくれるんじゃないかなと思って。昨日、ヒロさんがジルク様に投げ掛けた言葉を聞いた時に確信しました。それに、この話を知らなくて、もし手遅れになる日が来たら後悔しませんか?」

ヒロは動揺したままだが、一度息を吐いて気持ちを落ち着け、ディンの言葉の本当の意味を冷静に考える。

「オレには国の兵士と違って戦争に通用するような力なんかない。なのに、オレにジルク様を助けろと‥‥?それは、何かあったらジルク様を必死で守る捨て駒になれーーと言っているような感じですね。それは、間接的に‥‥ジルク様と命が繋がっているリーネを守る為に‥‥その為に、なんの力も持たないオレのことでさえ、リーネを守る足しにしようとしているとしか思えない」

そう確信しながら真っ直ぐにディンの目を見て、

「今日の用件はそういうことですか?確かに、それは酷な話ですね」

吐き捨てるように言う。ヒロは最悪な気分だった。
自身で言ったように、ジルクとリーネを守る捨て駒になれと言われてるみたいで‥‥
そして、二人の命が繋がっている。その話を聞いて思った。

せっかく、リーネの想いを見守ると、応援すると決めたのに‥‥

(到底、幸せと程遠いじゃないか‥‥)

ヒロは歯を食い縛る。

「ヒロさん。僕は別にそんなつもりで言ったわけじゃないんです。ヒロさんに捨て駒になれとかそんなこと、僕は言っていません」

ディンの言葉にヒロは目を細め、

「でも、そう言う意味にしか捉えれません。ディンさん、リーネに死んでほしくないんでしょ?さっき言ったように、オレはまだあなたをよく知らないけど、ディンさんは多分リーネしか眼中に無い。オレは確かにジルク様を助けたい‥‥でも、オレはシハルも波瑠もカイアも、一緒に暮らしてる皆のことも助けたい。ディンさんみたいにリーネだけってわけじゃないんです」

そして自らの左腕をギュッと掴み、

「情けない話、オレは命を懸けるとか、そんなことは出来ないただの人間です。誰も死なず、皆で生きたい。そんな生温い思考なんです。死ぬのは、怖い」

それから、雪の中を走り回る子供達の姿が見えて、ヒロはその子達の方に目を向けながら、

「誰かの為に死んでも、残された人間は苦しいんです。だから、大切な人達が死なないように、出来る限りのことはしていきたい。オレはもう、友達が死ぬのも、異端者達が死んだり差別されたりするのを見るのも‥‥誰かに助けられて生かされるのも、嫌なんだ」

そう言ったヒロに、

「誰だって、死ぬのは嫌ですよね。でも何故、リーネもジルク様も危険とわかって生命を繋いだんでしょうね?」
「失礼ですが、ジルク様は戦いには不向きですから。だから国を守る力はその魔術に頼るしかなかったんでしょう。リーネは‥‥理由は知りませんが彼女がジルク様に持つ感情が恋だとして、それが正真正銘本物で大きな想いだとしたら、好きな人と命を繋ぐ、手助けするーーある意味で、彼女からしたらそれは、幸せなのかもしれません」

ヒロは苦しそうな顔をして言った。
もし、自分がリーネみたいに魔術が高くて、もしジルクと生命を繋いで戦えと言われるならば‥‥

(私は、それに命を差し出すのは怖い。だって、自分が失敗したらジルク様の命まで。それを踏まえてリーネが進んで選んだのなら、彼女の想いは、私の憧れなんかより、遥かに‥‥)

そこまで考えてヒロは静かに笑う。

「ヒロさんは凄いですね。そうやって、人の考えや行動を代弁できるなんて」
「代弁!?いや、これは勝手に考え‥‥言うなれば妄想?オレにはリーネの考えなんて本当のところわかりませんからね」

苦笑いするヒロに、

「やはり、ヒロさんに話して良かった‥‥と思います」
「え?」
「真剣に取り合ってくれるし、想像だろうが妄想だろうが答えを返してくれる。僕は出会って間もないヒロさんのことを全然理解していないのに、ヒロさんは僕をすぐに理解している。とても不思議な気分です」

それから申し訳なさそうな目をして、

「ヒロさんはジルク様を好きなのに、今日は酷な話をしてしまって‥‥」
「あ、あはは、いいですよ。むしろ極秘な話をオレなんかにありがとうございます。誰にも話しませんから‥‥聞けて、良かったです」

それに、と続け、

「リーネのことが好きなら、ディンさんも辛いでしょう?ディンさんは間近で二人のことを見ているから、凄く辛い立場ですよね」
「あんまり、わからないんです。ただ、今日ヒロさんに色々言われて、そうなのかもしれない、とは思えました」

そんなディンに、

「ディンさんって、見た目と違って天然?鈍感?なんですね」

そう言って笑った。


ー23ー

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