「ちょっと!どういうつもりなのぉ!?」

一旦シハルの部屋から出たヒロと波瑠。当然、波瑠はヒロに問い詰めた。

「ごっ、ごめん!ちょっと訳が‥‥」

ヒロはシハルがいくつかの記憶を失ってしまっていることを波瑠に説明する。

「シハルさんが‥‥」

共に話を聞いていたカイアが俯いた。

「だからって!なんで私が恋人?!」
「ごめん!咄嗟に‥‥ でも、こうなってしまった以上、シハルの恋人になってくれない、かな?実は嘘でした、なんて言えないし‥‥」
「なんなのよぉ!それ!」

波瑠は叫ぶ。
さすがに、シハルは実は妻子持ちだった、なんてことを波瑠に説明は出来なくて、そのことは悪いと思いつつ、ヒロは黙っていた。

「‥‥シハルの記憶が戻るかはわからないけれど、これからもギルドの依頼をしつつ、オレは今まで通りやっていこうと思うんだ」

ヒロは言い、

「波瑠は、国に回収された異端者がどうなるか知ってる?オレは知らないんだが‥‥」
「私だって知らないわよぉ。まあ、噂では殺されるとか飼われるとか、各国の地下に地下道みたいな牢獄があってそこに放り込まれ放置されるとか‥‥そんな噂は聞くわ。真実はお偉い方しか知らないけどねぇ」

波瑠の言葉を聞き、

(サラ‥‥)

ーーと。男に連れられ、回収されてしまったサラを思い、胸が痛む。

「オレ、また失敗してしまうかもしれないけど、でも、これからも彼らを、世界中が異端者と呼ぶ彼らを助けていきたい。それが誰かの目に偽善だとか狂った奴みたいに映っても、オレは今度こそ守りたい」

そこまで言って、ヒロはカイアと波瑠を見て、

「良かったら、手伝ってくれない‥‥かな?」

それに、

「‥‥僕も、今後はちゃんと守りたい。サラとカナタみたいなことにならないように。‥‥頑張ろう、ヒロさん」

カイアが真剣な眼差しで言い、

「もう、意味わかんないわよぉ!‥‥まあ、今回は助けられた恩もあるけどぉ‥‥あと、恋人の件も厄介だし‥‥」

そう波瑠は言いつつも「仕方ないわね」と言ってくれて。

「‥‥あ、ありがとう、二人とも」

ーーそうして、まだろくに波瑠と自己紹介もしていなかった為、三人はお互いのことを話したり、シハルのことも話した。

波瑠は火本(ひもと)と言う国の出身で、身分の良い家の生まれらしい。だが、昔から外で駆け回る方が好きだったらしく、こうして国を離れ、好き勝手生きているそうだ。

◆◆◆◆◆

「それでね、これからもギルドで依頼をこなしつつ、助けれる異端者達が居たら助けていこうと思うんだ。シハルは‥‥どうする?」

そう、ヒロはシハルに話す。

「もちろん、俺も手伝うよ」
「‥‥大丈夫?全部を覚えてないんだろ?」
「大丈夫!ヒロさんと一緒に依頼をこなしてたなぁ、って言うのはなんとなく覚えてるんだ。カイアの美味い料理も覚えてるし。それより俺は波瑠さんのことを思い出さなきゃなぁ‥‥」

そう言ったシハルを見て、本当に思い出さなければいけないのは、妻子のことや、サラとカナタのことだろうな‥‥と思い、ヒロは申し訳ない気持ちになった。

「でも、俺は本当、ヒロさんに助けられたよ」
「え?」

また記憶が曖昧になっているなと、ヒロは思う。

「今も‥‥だけど、近頃はずっと穏やかな気持ちなんだ。以前は、なんだかとても荒んでいた気がする。でも、ヒロさんの言動が日に日に俺を変えてくれて、救ってくれていた‥‥そのことを、俺はちゃんと覚えてる」
「‥‥」
「でも、なんだろうな。思い出せないけど、とても大切な何かが‥‥君に、伝えなきゃいけないことがあったような気がするんだけど‥‥ごめんね、思い出せなくて‥‥」
「‥‥」
「あれ?ヒロさん、また泣いて‥‥?」

確かに、シハルは日に日に変わっていっていた。異端者に対する見方が。
最終的に、シハルは大切な人の、奥さんが異端者を助けた時の心情を理解出来たのか、出来なかったのか、その答えまで辿り着いたのかはわからない‥‥

あの日から不本意ながらも一緒にいて、不信感がいつの間にかなくなって、当たり前の毎日になっていた。
ずっとこのまま、当たり前が続いていくと思っていた‥‥でも。

(私‥‥シハルのこと、大好きだったんだね‥‥)

その日ヒロは、静かに、淡い想いに蓋をした。

◆◆◆◆◆

それから、教会で四人で過ごし始めることとなる。
ヒロとシハルと波瑠。三人でギルドの依頼をこなし、帰ればカイアが家事をしてくれていて。
異端者を助けては教会に連れ帰り、かつてのサラとカナタのように共に暮らした。

ーー何人も、何人も助けた。
ーー何人も、何人も救えない時もあった。

それでもヒロは出来る限りのことは頑張ろうと決めた。
シハルと約束したから。
カイアと約束したから。
波瑠と約束したから。

‥‥そうして数年。
そんな日々の中で、ヒロはとうとう十六歳になった。

シハルの記憶は相変わらず一部抜けたままで。

【十六歳】。
三年前、シハルが言ったように「ギルドを続けるんなら、男の子の言動をして、強気でいた方がいいよ」それをヒロは守り続けていた。
ギルドの依頼ももう一人で受けれる歳だし、最初にシハルに約束した歳でもあった。
ヒロが自立できる日が来るまで、シハルはヒロを見守るーーと。
だが、その記憶も抜け落ちているのか、シハルは変わらず側に居る。

ヒロの嘘から始まった、シハルと波瑠の恋人宣言も‥‥いつの間にか本物になってしまって。
波瑠の方がシハルにメロメロだった。シハルも波瑠は恋人だと信じきっていて、本当に恥ずかしくなるぐらい恋人になった。

複雑な気持ちになることもある。
でも、これが、ヒロ自身で選んだ道だ。

もし、シハルの記憶が戻ったらどうなるのか‥‥
だからこそ、二人には早く結婚してもらいたいのだが、二人はヒロを手伝うと言って落ち着かない。

サントレイル国には、あれから一切戻ってはいない。だが、風の噂では、ジルクはとても頑張っているという。国民に支持されているという。
それを聞く度に、ヒロもまた、頑張ろうと思えた。

ーー異端者を助ける。
彼らの命が関わること故、失敗はとても苦しいけれど、それでもヒロは信じていた。
いつか、ほんの少しでも、世界中の人々が異端者を差別しない世界になるようにと。
シハルやカイアのように異端者を憎んでいた彼らが、異端者を受け入れてくれたように。

そして、ジルクが統治しやすい世界になりますように‥‥と。


ー19ー

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