あれから数日が経った。

廃墟の教会には、ヒロ、シハル、サラ。そして先日の異端者の男の子ーーまたシハルが名前を考えてくれて、カナタの四人となった。

「今日はちょっと面白い依頼を受けたんだ」

明朝、出掛ける前にシハルが悪戯げに笑って
言うので「面白い依頼?」と、ヒロが聞き返せば、

「サントレイル国で王様が演説をするそうでね。その演説中の治安維持‥‥まあ、演説を妨害する奴等がもし居たらそれを止める役ってこと。そんな依頼なんだ」
「ジルク様が‥‥!」

予想していたヒロのその反応にシハルは苦笑して、

「簡単な依頼だったらヒロさんに譲ってあげたかったけど、本当に妨害者が出たら危険だからね」
「いいよ。オレはまだまだ未熟だからね。十六になって、一人で依頼を受けれるようになるまで、頑張って力も知識も成長させてくよ」

そう言って、ヒロは笑い返す。

「‥‥子供が居たら、こんななのかなぁ」

ため息混じりにシハルが呟いて、それにヒロが首を傾げれば、

「最近、ヒロさんが自分の子供のように思えてくるよ」
「え!?でも、オレ達って七つ違いだよね!?それだったら、サラとカナタの方が‥‥」
「ヒロさんの言動がね。とても子供らしいから」

そうシハルは言い、

「だっ、だって、まだ子供だも‥‥」

言い終わる前に、額に一つ唇が落とされて、その後でわしゃわしゃと髪を撫でられた。

「なっ‥‥はぁ!?」
「じゃあ、行ってくるから。ジルク様の様子、君の代わりに見てきてあげるよ」

何事もなかったようにシハルは立ち上がり、教会を出て行った。

(‥‥子供、かぁ。シハルってば、私を子供扱いしすぎじゃない?)

父が居たら、こんななのかなぁ‥‥なんて、そうヒロは思いつつ、唇を落とされた額に手をあてて、

(いやいやいや。じゃあ、これはなんだったの!)

思い出して顔が火照ってしまい、ぶんぶんと首を横に振る。

(はぁー。子供子供子供子供。皆そればっかり。あの女の人‥‥波瑠さん。いつかもう一度会いたい。私がもっともっと、自分のやり方をハッキリ言えるようになったら‥‥!だって、言われっぱなしなんて悔しいし!)

そう思い、椅子に座ってぼんやりしたままのサラとカナタに視線を移し、今日は何をしようかな、と考えた。

サラとカナタの二人にいつも言葉を教えるように話し掛けるがやはり返事はなく。

ただ、物を渡せばそれに触れて何かしようとする。
ーー例えば、積み木なら積むし、紙とペンを渡せば何か描き出す‥‥という具合だ。

(いつかこの子達、喋れたらいいな)

ヒロは思った。

ガサガサガサーー‥‥

すると、外から草が揺れる音が聞こえて、風が強いのかなと、ヒロは思う。

ガサガサ、ガサガサガサガサーー‥‥

だが、何か変だ。何か居るような‥‥
そう思い、ヒロは恐る恐る扉を開け、教会の入り口を見渡し、音のする方へ歩き出す。
すると、

「うわ!?」

教会の玄関に自然と生えている草の中、人の姿を見つけてヒロは驚き、見つけられた相手も同時に驚いた。ヒロより少し年上だが、若い男だ。

「‥‥だ、誰?何かご用ですか?」

ヒロが訝しげに聞けば、

「本当に‥‥人が居た。失礼ながら、貴方は?」

男は驚きながらもそう聞いてきて、

「オレは‥‥こっ、この教会って廃墟だろ?勿体ないなと思ってちょっと使えるようにしてるんだ」

相手の正体もわからない為、ヒロは苦笑しながらそう答える。

「‥‥中を見てもいいですか?」

男に聞かれて、だが、中には異端者であるサラとカナタが居るのだ、シハルもいないし、入れるわけにはいかない。

「まだちょっと足場も悪くて、いろいろ途中だからさ。その‥‥」
「‥‥中には異端者が居るんですね?」

男に言われ、ヒロはギクリと肩を揺らした。

「なんのこと?」
「僕、見たんです。先日村で、貴方は異端者の少年を連れていきましたよね。その時、なんか変だなと思って、貴方と和装の女性の話を聞いてたんです」

(‥‥う。あっ、あの村に居た人なんだ‥‥やっぱり、騙せる人と騙せない人が居たか)

ヒロは眉を潜め、

「貴方は異端者を国に突き出さず、助けてどうするんです?大量に集めて、一気に金にでも変えるんですか?」
「なっ‥‥!?そんなことするわけないだろ!」

カチンときて、ヒロは男を怒鳴ってしまう。

「怒るってことは、やっぱり中に異端者が居るんですね」
「ーーっ!だったら、どうなんだよ」

シハルも居ない今。
ヒロは圧倒的に不安だらけであったが、強い気持ちでいなきゃいけない、と自分に言い聞かせる。
異端者を助けると決めたのは自分なのだから。

「貴方と異端者を国に突き出します」
「なっ、なんで?」
「どんな理由であれ、異端者を助けることは法に触れるんですよ。貴方は‥‥」
「あなた、名前は?」
「え?」
「あなたの名前、聞いてるんだよ」
「‥‥カイア」

ヒロは頷いて、

「カイア、ついてきて」

そう言って、ヒロはカイアと名乗った男を教会の中に手招きした。先程までヒロはカイアを中に入れたがらなかった為、カイアは目を丸くする。

(私がサラとカナタを守らなきゃ。ソラとタカサが、私を守ってくれたみたいに‥‥)


ーーそうして、教会の中に招かれたカイアが見たものは‥‥

「あなたはこの光景を見て何を思う?」

そう、ヒロに問われた。
一室では、異端者であるサラとカナタが椅子に座り、テーブルの上でそれぞれ塗り絵をしている。

「どうって‥‥」

カイアは質問の意味がわからない、と言う風にヒロを見れば、

「オレには、彼らは普通の子供にしか見えないよ。オレは‥‥小さい頃は魔術しか学べなかったけど、普通の子供達は、きっとああやって、子供らしいことを熱心にするんだよね」

サラとカナタを通して、昔を、あの、見捨てられたも同然の施設に居た頃をヒロは思い出す。

「塗り絵の他にも、積み木とか、折り紙とかもあの子達、熱心にするんだよ。そりゃ、会話なんてものは無いけど、彼らは彼らなりの生活が出来るんだ。虐げられれば、異端者は異端者のままであり、普通の生活環境に居られれば、異端者は人と何も変わらない」
「‥‥」

ヒロの言葉にカイアは口ごもった。

「カイアは、歳はいくつ?」
「え?‥‥十六ですけど‥‥」
「オレと三つしか変わらないね。だからかな。オレはなんだか悲しい。オレ達、歳が近いのにさ、考えが違うのが‥‥」

ヒロは俯く。カイアは静かにヒロを見つめ、

「僕は、オルラド国出身なんです。僕の両親は、ギルドの依頼を受けて生活費を稼ぎ、僕を育ててくれたんです‥‥」

急にカイアが話し出すので、ヒロはすぐに顔を上げる。

(オルラド国!?あの、戦闘主義国‥‥ソラとタカサを奪った、サントレイル国を苦しめた‥‥私の、片腕を奪った‥‥!?)

ヒロは一ヶ月前を思い出し、自らの左腕ーー義手に触れた。

「両親は異端者に関わる依頼も、沢山、たくさん受けていました。でも、いつからか、異端者に関わる内に、両親は何故か異端者に同情してしまった。子供の僕にはさっぱりわからなかったけれど‥‥両親はオルラド国王に異端者関連のギルド依頼を廃止にしないか、と持ち掛けたそうです。両親は直ぐ様、牢に入れられ‥‥そして‥‥直ぐ様、見せしめのように‥‥」

カイアは続きを言えず、ガタガタと体を震わせて泣いている。
ヒロはその光景を安易に想像できた。
あの日のオルラド兵達も、なんの躊躇いもなく多くの命を奪っていったから‥‥

「‥‥そうか。カイアは、両親を奪った異端者が憎いんだね‥‥」
「うっ‥‥ぅ‥‥」
「でも本当は、オルラド国を、この世界の成り立ちを憎むべきなのに、法だとか常識のせいで自然と‥‥異端者を憎むように仕向けられてしまうんだね‥‥」

ヒロは泣いたままのカイアの肩を掴み、

「でも、お願いだカイア。異端者を憎み、異端者を国に突き出すってことは‥‥とても酷いことだとオレは思う。オレはこの子達をこのままここで暮らさせてあげたい。この子達のこんな姿を見て、異端者達が人外だなんて、オレには思えないんだ」

それに、真剣に訴え掛けてくるヒロの言葉に、泣いたままのカイアがいきなりクスクスと笑い出して、

「あ‥‥はは‥‥すっ‥‥凄く、子供染みた、言い回しですね。まるで、偽善者みたいな‥‥」
「また偽善者!いろんな人に言われてるけど、偽善とかそんなんじゃないから!」

ヒロは頬を膨らませ、

「まあ、カイアの故郷だけどさ‥‥オルラド国にはオレも思うところがあるんだ。でも、とりあえず歳も近いし、仲良くしようよカイア。名乗るのが遅れたけど、オレはヒロ。色々、お互いに思うことを話してさ、それからオレ達を国に突き出すかどうか考えてよ」

ヒロはカイアに右手を差し出して、

「これじゃあまるで、友達になろうよ、じゃないですか‥‥ふふ、本当に、変な人だ」

そう言って、カイアはヒロの手を握り返した。


ー15ー

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