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「では私はここまでで」
三人を城門まで送り、リーネは言った。
「ありがとうリーネちゃん」
シハルが言えば、
「ちゃん付けはやめなさい!無礼ですよ!?なんなんですか、あなた達は人を子供扱いして」
リーネはそう怒りながら言う。
「ところでぇ、リーネちゃんってもしかして‥‥王様のことが好き?」
波瑠がいきなりそんな質問をすれば、リーネはきょとんとした表情をして、それから一瞬の内に顔を真っ赤に染め上げた。
「図星だ」
その様子にヒロが笑い、
「ちっ、違います!何を聞くんですか着物女!図星なんかじゃありません赤マフラー男!!」
リーネは波瑠とヒロを怒鳴り付ける。
「着物女って‥‥そのまんまじゃないのぉ。ネーミングセンスがないわねぇ」
波瑠は呆れ、
(また男と思われてる‥‥)
ヒロは心の中でため息を吐いた。
「とにかく!ジルク様が一般市民であるあなた方を気に掛けて下さり、慈悲深く見逃して下さったのですよ!二度と、あんなことがないよう!」
「あ、こんな所に居ましたか、リーネ」
勢いよく怒り任せに言葉を放つ最中のリーネの後ろから男の声が掛けられて、彼女はハッと正気に戻ったかのように後ろに振り向き、
「ディン兄さん!」
声の主をそう呼んだ。
そこに居たのは、紫の長い髪を一つに束ねた長身の青年。
「兄さん?兄妹?」
シハルが首を傾げながら聞けば、
「ええ、そうですよ」
と、ディンと呼ばれた青年は笑う。
ヒロは青年をじっと見て、
(兄なんて居たのか‥‥?でも、何か違和感が‥‥)
何かを不思議に思って少し考え込んだ。
「それで兄さん、どうしたの?」
「どうしたって‥‥今から軍部会議でしょう?リーネがなかなか来ないから呼びに来たんですよ」
「あ‥‥」
忘れてた、といわんばかりにリーネはわなわなと震え出し、
「あっ‥‥あなた達に構ってる場合じゃないわ!さっさと帰りなさい!」
そう言って、彼女は慌てて城内へと戻って行った。
「最後まで怒ってたわねぇ」
呆れるように波瑠は眉を潜めながら言う。
「あなたは行かなくていいんですか?」
と、ヒロがディンに聞けば、
「え?ああ、僕はそういったポジションではないので。それよりヒロさんにシハルさん、でしたか。昨日はすみませんでした」
初対面であるはずのディンがそう言うので、二人は首を傾げた。しかし、シハルは何かに気付き「あ」と言って、
「その声‥‥昨晩、兵達を一掃した後に質問を投げ掛けて来た?」
それにディンは頷く。
「あ、ああー!本当だ、言われてみれば‥‥」
と、ヒロも思い出したようで。
「兵達が荒事を起こしたら止めに入ろうと見張っていたんですが、貴方達がうまいこと退けてくれましたからね。僕の出番は無しでした」
そう、肩を竦めながらディンは言った。
「それより貴方達はギルドの依頼途中なのでしょう?この先にある村だと聞きましたが」
「なんで知ってるのぉ?」
不思議そうに波瑠が聞けば、
「ええまあ、王を護るのが仕事ですので、待機しながら‥‥まあ、聞こえたんですよね」
「‥‥」
「あー、悪趣味とか思わないで下さいね?あくまで一兵として、王の周りを護る仕事ですから。だから、昨晩のお詫びも兼ねて、村まで馬車を出してお送りしましょう、と言うのが本題です」
だからそんな嫌な顔しないで下さいね、と、ディンは付け足した。
「馬車!!」
歩き疲れていた波瑠は目を輝かせる。
「‥‥そ、それって、馬車代はー‥‥」
おずおずとヒロが聞けば、
「勿論、要りませんよ」
そうディンが答えたので、
「やったね!ヒロさん、波瑠さん!」
と、シハルが言って、三人がこれだけのことで喜んでいるので、ディンは首を傾げた。
◆◆◆◆◆
ガタ、ガタンーー‥‥
緑一杯の草原と青空を背景に、ディンが用意してくれた馬車の中で話は繰り広げられている。
「でも、残念だったわねぇヒロ」
「何が?」
「王様よぉ。あんたのこと、ただの友人や恩人としか思ってないわねぇ」
「そんなの当たり前じゃん!王様だよ?手の届かない存在だよ」
なんて、女子トークが繰り広げられていて‥‥
「ヒロさんにはそういったご趣味が?」
と、少し離れた場所に座るディンがシハルに聞けば、
「趣味?ええ、ヒロさんはジルク様にゾッコンなんですよ」
悪気なくシハルは答えた。
「でも、王様の前でのあんた‥‥ほんっとに可笑しかったわぁ。恋する乙女って感じぃ?こんな身なりなのに、口調まで改めちゃってぇ。カイアにも見せたかったわねぇ」
「緊張するもんはするんだから仕方ないだろ!カイアは関係ないし!ってかこの話はもう終わろう!ほら、村が見えてきた」
と、外を指差す。ディンも外を見ながら、
「とりあえず、貴方達は物資を取引先にお渡しして戻って来て下さい。サントレイルに戻る際も送りましょう」
「え!?いいんですか?な、なんか悪いですね、わざわざ着いてきてもらって送り迎えまで」
内心ラッキーと思いつつ、ヒロが言えば、
「いえ。貴方の質問の答えが面白かったからですよ」
ディンにそう言われて「?」と、ヒロは不思議そうにした。