声を掛けられた瞬間、ヒロは全身に電気が流れる感覚に陥る。

「っ‥‥おっ、お久しぶりです!ジル‥‥じゃなくて、王様!!」

ヒロは慌てて頭を下げ、

「あの!ほっ、ほんの出来心と言いますか‥‥オレ‥‥じゃなくて、私達は別に、悪気があったわけではないんです!!」
「ちょっ‥‥ちょっとあなた!?」

王を前に、勢いよく言葉を続けるあまりに無礼極まりないヒロをリーネが一喝しようとしたが、

「ああ、リーネ。いいんだよ。ヒロとは知り合いでね。それにヒロ、君達は何か勘違いをしているようだ。街中で異端者を助けた人が居るとリーネや他の兵から聞いて、容姿を聞いてすぐに君だとわかったんだ。三年振りだけど、変わってないね」

ジルクはそう言った。

「わっ、私なんぞのことを覚えていて下さり、こっ、光栄です!」

緊張しながらも、不馴れに畏まるヒロの姿を見て、

「恋する乙女丸出しねぇ。カイアが見たらショックでしょうねぇ」
「ほんとほんと」

波瑠とシハルがヒソヒソと、しかし面白そうに話す。

「‥‥あの、ジルク様。ご無礼を承知でいいでしょうか?その者と知り合いとは‥‥?」

リーネが困惑した面持ちでジルクを見て聞けば、

「構わないよ。三年前、ヒロはまだ学生でね。私は自国の社会見学のようなものでヒロが通っていた学園を訪問した。その学園内に私の命を狙う賊が紛れ込んでいて、部下が私の側から一瞬離れた隙に現れてね‥‥本当に偶然、学園内の廊下を歩いていたヒロに助けられたんだ」

そう、懐かしむようにジルクは言った。

「それから恩人として何度か会ったものさ。私も三年前は十一歳の子供だったからな。歳の近いヒロと、ヒロの友人と、お忍びで遊んだりもした」
「‥‥」

リーネは唖然とした表情でジルクの話を聞いている。
三年前を語るジルクの表情は一国の王の顔ではなく、十四歳という少年の表情であった。

「色々、あったな。後にヒロはこの国から居なくなったんだけど‥‥こうしてまた恩人であり、友人である君に会えて、私は嬉しいよ。さすがに、部下に「友人かどうか確かめたいから連れて来てくれ」なんて言えないから手荒くなってしまって、すまなかった」

そう言ったジルクに、

「話の途中で失礼します。ーーでは、教会までの尾行の命はもしや、貴方が?」

シハルが聞けば、

「ああ。異端者にも、匿う者にも危害は加えるなとは命じたが、知っての通り、異端者を快く思う人材は居ないに等しい。手荒な部下が多くてね‥‥」
「はぁー‥‥なるほどねぇ。ヒロに会いたいが為の行為だなんて、ロマンチックねぇ?こっちは真夜中にヒヤヒヤしたけどぉ」
「‥‥はは、本当に申し訳ない」

波瑠の言葉にジルクは困ったように笑う。それから彼はヒロをじっと見つめ、こう聞いた。

「そういえば、君は今は何をしているんだい?」
「えっと‥‥し、仕事!この二人、波瑠とシハルと言うのですが、三人で各国のギルドの仕事を請け負っているんです!じ、実は今も仕事途中なんですが‥‥」

ヒロが二人を紹介しつつ答えれば、

「それはそれとして、異端者を匿っているのはなぜです?」

リーネがそこを突っ込んでくるので、三人は苦笑いして誤魔化す。
しかし、ジルクはその件に関してではなく、

「その歳で、ギルドの‥‥」

唸るようにそう言い、

「君は昔から武術に長けている。昔も言ったが、私の部下として働くのはどうかな?もちろん、そちらの二人も一緒に‥‥」

そう、ヒロを見て言った。

「じっ、ジルク様!?」

当然リーネは困惑する。
ヒロは以前にも聞いたその誘いを思い浮かべ、先程まで緊張していた面持ちを引き締めて、

「‥‥是非、そうしたいのは山々なのですが、私は‥‥三人でやらなきゃいけないことがあるんです。大した事じゃないんですが」

そう言って苦笑すれば、

「でも」

と、ジルクはヒロの前まで歩いて来て、ギュッとヒロの両肩を掴み、心配そうにヒロの顔を覗き込む。

「!!?」

そんな彼の行動に、ヒロは顔を真っ赤にして動揺した。
心臓が跳ね上がってバクバクと音がうるさい。

「察するに‥‥やらなきゃいけないことと言うのは異端者のことかな?私は、それについては詳しく触れないよ。ただ、あまり目立たぬよう、無理だけはしないでくれ。‥‥私がもっと大人で、もっと力があれば、彼らを差別させない国に出来るのに‥‥」
「い、いえ、王様は立派に‥‥」
「ヒロ、そんなに畏まらなくても、昔みたいに呼び捨てで、友達として話してくれていいんだよ、私達はれっきとした友人なのだから」

そう言われて、当然ヒロは嬉しかった。
まるで、三年前に戻れたような気がして‥‥
でも、それは無理なんだと、ヒロは苦笑して、

「それは出来ませんよ。そこのリーネ嬢がそれを許さないでしょう。粗相をするなと言われてますから」
「当たり前です!!ジルク様も!そろそろ気が済みましたか?」

リーネが顔を真っ赤にしながら言うと、ジルクも苦笑して、

「もっと話したいが‥‥確かに、彼女が許してくれなさそうだな。ヒロに、ヒロの仲間の方。また、機会があれば是非、近い内に話でもしましょう」
「光栄です」

それにシハルが一礼する。

「あのぉ、王様。最後に一つ質問しても?」
「ああ、構わないよ」
「王様のお話はヒロからよく伺っておりましたわ。王様はヒロのことをどうお思いで?」

なんてことを波瑠が質問するものだから「勝手になんてことを聞くんだ!」と、内心思い、ヒロは嫌な顔をした。
質問されたジルクは数回大きな赤茶色の目を瞬きさせ、ニコリと年相応に笑い、

「先程も言ったように、大切な恩人で、気兼ねなく在れる友人だ」

そう答える。


ー6ー

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