ーー明朝。
ヒロ達は拠点地である教会を出た。
カイアと異端者達が心配だが、何かあればカイアが連絡魔法(この世界の一般的な魔法であり、親しい人物と離れていても会話が出来る)で知らせてくれると言うのだから、それを待つしかない。
それに、ヒロ達には仕事もあった。

各国には依頼人の仕事をこなしていくギルドと言うものがあり、簡易な依頼から難関な依頼まで様々なものを受け付けている。
当然、難関なものほど受け取り額は高く、早い者勝ちだ。

「あー‥‥先日請け負った仕事、期日が明日までだわぁ」

波瑠が不服そうな顔をして言い、

「仕方ないよ、昨日はたまたま異端者の子を見つけて、教会に帰らざるを得なくなったんだからさ」

苦笑しながらヒロは言う。そんな二人の会話を聞きながら、

「でも、この荷物を届けるにはサントレイル国を通らなきゃダメだから、ちょっと不味いことになったね」

と、シハルがため息混じりに言った。

請け負った仕事と言うのは、先日、ニルハガイと言う国のギルドで受けたものである。
内容は、サントレイル国の少し先にある村に物資を届けるというものだ。

ーーしかし、昨日の今日である。
ヒロ達は異端者を匿っている人間としてサントレイルの兵士に顔を知られてしまった。
サントレイル国に行くのは危険な可能性が高い。
本来なら昨日、届けに行く予定であったのだから‥‥

この仕事は余り物の仕事であった。請け負ってみたら、偶然にヒロの故郷のようなサントレイル国に立ち寄ることになり、その結果がこれだ。

ヒロはぼんやりと青空を見上げながら歩き、それから軽く息を吐いて、

「でも、信用問題だからな。急いで国を通り抜けたらきっと大丈夫だよ」
「はぁ‥‥その『急いで』がうまくいくかしらぁ。転移魔術を勉強してたら良かったわぁ‥‥そしたらパパッとギルドに行ってパパッと出れるのに」

と、波瑠は項垂れる。

自分達の生活と、教会に居る異端者達の生活の為、節約の日々だ。
だから、馬車に乗ることはせず、昨日と同じく二時間余りを歩いた。

「はぁ。いつものことだけど一時間歩いた辺りでキツい。やっぱり転移魔術を学ぼうかな‥‥」

息を切らしながらヒロが言い、

「道中、馬車が走ってたね。まあ、馬車代ぐらい構わないけど‥‥ただ、今の俺達じゃサントレイル国で降りた時に目立っちゃいそうだしね」

シハルが言う。

そうこうしている内に、ようやく眼前にはサントレイル国。
さてどうしたものかな、とヒロ達は思う。

「とにかく、まだ昼にもなってないし、人通りの少ない今がチャンスなんじゃないかしらぁ?」

波瑠が言い、三人は目配せをしながら「まあ、どのみち行くしかないか‥‥」そんな思いだった。

◆◆◆◆◆

サントレイル国に入ったが、今のところ、街中には兵士達の姿はなく、難なく通り抜けれそうだったのだが、

「え。嘘だろ‥‥」

と、ヒロは立ち止まる。
目的地の村がある方面の出口に、見張りであろうか、兵士二人の姿があった。

「普段、あんなの居ないはず‥‥」

シハルは眉間に皺を寄せながら言い、

「ま、まさかなぁ‥‥オレ達待ち、とか?」
「でも、入り口には兵なんか居なかったから別の理由だと思うわよぉ?それでも‥‥厄介ねぇ」

困惑するヒロに波瑠はそう言う。
どんな理由であれ、兵士が居るのが邪魔だった。
昨日、サントレイル国の兵士達は教会でヒロ達の姿を見ているのだ。恐らく、その場に居なかった兵士達にも外見等の情報は回っている可能性は高い。

ヒロ達はその場に立ち止まり、思考を巡らせていると‥‥

「あなた達」

と、背後から声が掛けられて。
振り向けば、それはあの騎士の女の子であった。

冷ややかな、重苦しい空気が流れる。

「あなた達、昨日の騒動の時に居た三人ですね。少し時間をいただけますか?」

と、騎士の女の子は強い眼差しを三人に向けて、静かに言った。

「いや、あの‥‥オレ達何かしましたっけ?」

ヒロが苦笑いしながら言えば、

「ヒロ、駄目だわぁ‥‥私達、囲まれてる」

波瑠は肩を落としながら言う。
周りにはいつの間にか兵士達が数人‥‥

「昨日、異端者に手を出していた市民とは話を済ませ厳重に注意をしましたが、あなた達はその間に逃げましたね?あなた達を城へ連行します」
「連行って!?そんな大袈裟な。別にオレ達、何も悪いこと‥‥」
「いいから大人しくしなさい!」

ヒロの訴え空しく、彼女のたった一喝で兵達は武器の切っ先を三人に向ける。

(‥‥逃げようと思えば逃げれるけどどうする?)
(‥‥ここは大人しく捕まろう、ヒロさん、波瑠さん)
(そうねぇ。逃げてこれ以上、ややこしく目をつけられたくないし)

三人はヒソヒソと会話し、

「わかった。大人しくするよ、お嬢さん」

と、ヒロは両手を上げて降参だと言うように、お手上げのポーズをした。
『お嬢さん』と呼ばれてか、騎士の女の子は少々ムッとしていたが、何も言わず、城へと足を向ける。

◆◆◆◆◆

「‥‥連行されたはいいけど」

ヒロはキョロキョロと辺りを見回し、

「てっきり牢屋にでも放り込まれると思ったのに、一体‥‥」

そう続けた。
連れて来られたのは城内にある客室間であろうか。壁に飾られた絵画、天井にぶら下がるシャンデリア‥‥パッと見ただけでわかるように、豪華な装飾ばかりである。
三人は騎士の女の子にこの部屋に連れて来られ、ここで待つように言われた。

「何されるのかしらねぇ‥‥」

波瑠が少しだけ不安そうに言い、

「ううっ‥‥オレは逃げ出したいよ‥‥異端者を助けたり、サントレイルの国民殴ったりしたことが罪だ!とか言われて王様の前に連行されたらどうしよう‥‥」

そう、いつになく弱気なヒロに、

「ああ、ヒロさんはそうだよね」

納得するようにシハルが言う。

「まあそれだったらいいじゃない?王様に会えるチャンスじゃない。あんたはポジティブに考えたらぁ?」
「こんなチャンスいらないよ!」

波瑠の言葉にヒロは頭を抱えながら言った。
そこで、

ーーガチャリ‥‥と、一室の扉が開かれる。
先程の騎士の女の子が扉を開けたまま、

「さあ、あなた達。着いて来て下さい」

そう言った。

「どこへですか?」

シハルが尋ねれば、

「王の所へです」

先程の予感が的中し、ヒロは見る見る内に顔を青ざめさせ、

「は‥‥はあ?!ちょっとお嬢さん!なんで王様の所に連れてかれるわけ!?」

いち早くヒロはそう言い、

「先程からお嬢さんはやめて下さい!私にはリーネと言う名前があります!見たところ私とあなた、歳も変わらないでしょうに、失礼ですよ!?‥‥さあ、こんな無駄話はいいんです。王の貴重な時間を割くんです、質問は後にして、行きますよ?!」

騎士の女の子ーーリーネはそう怒鳴った。

◆◆◆◆◆

三人は、広く長い廊下をリーネの後に続き、少し歩いた先で彼女は立ち止まる。
着いたのは大きな扉の前。
‘いかにも’な場所である。

「この先に王が居ます。くれぐれも粗相のないよう‥‥」

リーネは言葉を止めた。
三人があからさまに嫌そうな顔をしているのだ。彼女は深くため息を吐き、

「‥‥返事は?」

と、三人を睨みながら返事を強いれば、

「はい‥‥」と、三人は力なく答える。その態度にリーネは再び息を吐き、

(こんな輩を通せとは‥‥王はいったい何をお考えなのかしら‥‥)

そう思いながら扉を開けた。

カツ、カツ‥‥

と、リーネは扉の先に広がる大広間ーーすなわち王の間に規則正しい足音を響かせ、

「ジルク様、例の三人をお連れしました」

胸に手をあて、頭を垂れてそう言った。

中央にある玉座には誰も座っていない。
ただ、目の前には銀の髪をした背の低い男の後ろ姿があった。
ジルクと呼ばれた男ーー否、少年はくるりとリーネと三人に振り向けば、その中の一人にふわりと微笑み、

「やっぱり君だったんだね、ヒロ」

そう言った。


ー5ー

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