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雪祭りが開催されていた町を逃げるように飛び出し、マインと少女は国境の村を目指した。
空にぽつぽつと星が浮かび出した頃、岩山に囲まれた小さな村が見えてくる。
恐らくあれが国境の村で、それを越えた先にニルハガイ国があるのだろう。
だが、マインは足を止める。
(なんだ、ありゃ?)
村の入り口には鎧を身に纏い、帯剣した警備兵が二人立っていたのだ。
警戒しながらも、マインは再び足を進める。だが、村への入り口を塞ぐように警備兵が立ち塞がり、
「ニルハガイ国へ行くのか?通行証を」
そう言われ、
「通行‥‥しょう?」
なんのことだとマインは目を丸くする。
「通行証がなければ村を越えることは出来ない。子供二人‥‥祭りの帰りか?もう暗いから家に帰りなさい」
そう言われてしまい、
「違う。オレはニルハガイ王に用があるんだ。ソードラントのおーさまから手紙を預かったんだ」
正直に理由を話すと、二人の兵はひそひそと何かを話し、
「ニルハガイ王にお前達のような子供を会わせるわけにはいかない。冗談もほどほどに、早く帰りなさい」
信じてもらえていないようで、再びそう言われてしまった。
「嘘じゃない!手紙なら‥‥」
マインがリュックサックの中から手紙を取り出そうとすれば、片方の警備兵がなぜが少女をじっと見つめ、
「‥‥この子供、えらく静かだな。ずっと一点を見て‥‥待てよ、この様子は‥‥」
などと、ぶつぶつ何かを言い、
「まさかこの子供、異端者か?」
と、マインに聞いてきて、
「は‥‥?なっ‥‥んなわけないだろ!?こいつはっ」
「おい、お前、名はなんと言う?」
焦るマインを他所に、警備兵は少女に詰め寄る。だが当然、少女は何も語りはしない。
だって、異端者なのだから。
そう、異端者‥‥
(異端者って‥‥いったいなんなんだよ。何か悪いことをしたか?別に、なんも、害なんか与えてないじゃねーか‥‥)
冷たいコンクリートの壁。ソードラント国でお縄につくはずだったマインは、ニルハガイ城の地下牢に放り込まれ、鉄格子の中に入れられていた。
異端者の少女は別の場所に連れていかれたようだ。
鉄格子の窓の外には三日月が浮かんでいる。
荷物が入ったリュックは取り上げられてしまったが、唯一、ニルハガイ王に渡せと言われた手紙だけは懐に隠し持った。
兵達はマインよりも、異端者の少女の方を重要視していた為、マインはただただ牢に放り込まれただけである。
「くそっ‥‥!」
ガンッーー!と、鉄格子を蹴り、どうにもならない状況に無力さを感じた。
異端者の少女と出会ってまだ四日。
一人で生きて来た自分と、初めて見た異端者の少女。
異端者は彼女だけではない。先刻の町での女性だって異端者だった。
誰も助けてはくれない。
まるで世界から切り離された状態。
(それでも、オレは生きていける。一人でも。でも、あの子は‥‥)
立場や境遇は違えど、生まれて初めてマインは自分と同じ存在を見つけたような気がした。
だが、それだけだ。
思うだけで、今の自分には何も出来ることはない。
出来ることは、この冷たい檻の中で鉄格子の扉が空くのをじっと待つことだけだ。