宿屋の店主に聞いたところ、雪の降る季節ーー毎年、中頃から終わりにかけてを【雪祭り】と言うらしい。

店には少しお高い料理が並んだり、街中では様々な出店が並んだり、恋人達の為にパーティーが開かれたり‥‥
そんな、浮かれ行事らしい。

別に、マインはそんなものに興味はなかった。
だが、ソードラント国を初めて出て、こんな風に自由に動いてみて思ったのだ。
ニルハガイ王の元へは一週間以内に行けばいい。
今はまだ、二日目だ。あと五日ある。

なら、急ぐことはないんじゃないか。
これが終われば、マインは牢屋行きなのだ。なら、束の間の自由を生きてみてもいいんじゃないかーーそんな考えに至り、雪祭りが行われている町に来てしまった。

夕暮れ時だというのに、町の中は人々で賑わっていてたくさんの店が並び、おいしそうなにおいが充満している。

マインは少女の手を握りながらキョロキョロと店を見て回った。
ふと、少女が足を止める。

「ん?どうしたんだよ」

マインも足を止め、少女の視線の先を見た。それは、手作りの服屋であり、ハンガーに掛けられたいくつかの服の中の、青色のワンピースを見つめていて‥‥

「お前、青色が好きなのか?青い色鉛筆持ってるし、昨日は海を見てたし」

マインがそう聞くも、もちろん返事はない。

(でも、服屋か。おーさまから与えられたこの服、窮屈なんだよな‥‥ニルハガイ王に会う時だけ着りゃいいか?)

マインはそう思いながら、少女が見ていた青色のワンピースを購入した。
ワンピースの入った紙袋を手渡しても特に反応はないが、きっと欲しかったはずだとマインは思う。

それから、屋台で食べ歩きをした。
ずっとずっと、盗んだものばかりを食べてきた。
ちゃんとした手料理を食べたのは、遠い昔のことで、本当に、僅かだったかもしれない。

両親との思い出はあまりない。
もっと幼かった頃に、オルラド国に奪われたから。
だから、顔も、覚えていない。
ただ、母親が熱心に字の読み書きを教えてくれたのは覚えている。
だから、孤児になり、学校にも行けていないのにマインは読み書きが出来た。
なぜ、幼い子供に読み書きを熱心に教えていたのかはわからないが‥‥

「警備員を呼べー!」
「早く!」

祭りの賑わいに混じり、そんなざわつきがしてマインは視線を動かす。

「え?」

光景に、マインは目を大きく見開かせる。
地面には一人の女性が土まみれになって倒れていた。
その女性を人々は取り囲み、石を投げたり靴で蹴った砂を掛けたりしていて‥‥

「気持ち悪い!雪祭りになんで異端者が紛れ込んでるの!」
「警備員は何をしてるんだ!」
「どっから入ってきたんだよ!」
「表情ひとつ変えないで、ほんとなんで生きてるのかしら!」

罵倒、嫌悪、暴力‥‥
ドッドッドッドッ‥‥マインの心音が大きく早まり、だらだらと汗が吹き出し流れ落ちる。
震える手で少女の手を強く握り、騒動に背を向けて人混みの中を早足で歩いた。

‥‥雪祭りで賑わった町から抜け出し、マインは顔を青くする。
ちらっと、少女の顔を見た。変わらず、無表情だ。

「あっ‥‥あれが、異端者‥‥異端者の、扱い?」


『君にはわからないかもしれないが、異端者の扱いは難しいんだよ』

『君は知識不足だ、色々と』

『何日後かにここに帰って来る頃には、きっと君は今の君と随分変わってるはずさ。その子に対する扱いも‥‥きっと、ね』

エーネンの言葉が頭の中を駆け巡る。

「あんなのっ、人間が人間にすることじゃ‥‥ねーだろ‥‥?でも、オレ‥‥」

自分は、あの場から逃げた。
罵倒を受ける無抵抗な異端者の女性を見ていられなくて、そして、異端者の少女の存在がバレるのがこわくて‥‥

『その子は三年程前だったかな。まあ、金目当ての男が我が国のギルドに連れて来てね。何かあったのか、その男は錯乱していたな。その子を放り投げて、金を受け取って、逃げるように何処かへ行ったなぁ‥‥』

マインは深く息を吐き、

「お前も‥‥あんな扱いを受けたことがあるのか‥‥?」

不安そうな顔をして、尋ねた。

「‥‥まだ暗くない。国境の村に行こう。それで、明日にはニルハガイ国へ行く!」

マインはそう言い、再び少女の手を握る。
この少女が異端者だと知られたら、あんな風にされるのかもしれない。
なら、一刻も早く用事を済ませ、エーネンの元に帰った方が安全な気がしたのだ。

気に入らないが、エーネンは悪い王様には見えなかったから。

一度だけ、町に振り返る。
あの女性は‥‥どうなるのだろう。
考えたところで、マインには何も、出来はしないのだ。


ー45ー

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