明朝、書庫の鍵が開けられ、マインと少女は兵士に叩き起こされた。
マインは散らかった本の中に埋もれるように寝ていて、その隣に少女が寝ていたことに気付き、慌てて飛び起きる。

一体、たった一夜でどれぐらいの本を読めただろうか。
とりあえず言われた本は読んだはずだが‥‥内容は全て、異端者、各国の情勢ーーそんな本ばかりだった。

次に二人は兵士によって、だだっ広く、無駄に豪華な浴室に案内される。
身形を整えるようにと、王からの伝言らしいが‥‥

もはや、頭が追い付かない。

◆◆◆◆◆


「おはよう、二人とも。うん、小綺麗になったね」

と、朝から驚くほどの量の朝食が並べられたテーブル。
そこに、一人腰掛けていたエーネンがマインと少女を見てにこりと笑った。

「おーさまよぉ‥‥なんなんだよいったい」

マインはエーネンを睨み付け、自身の服の襟をくいくいと引っ張る。
風呂から上がった後、着ていたボロボロの衣類がなくなっていて、代わりに小綺麗な衣装が置かれていたのだ。それは、少女に対しても。

エーネンはニヤニヤとマインを見た後に少女を指差し、

「ご感想は?」

なんて言ってきて。
少女は頭に大きなピンクのリボンをつけていて、白とピンクが散らばったフリフリのスカートを纏っていて。

「かわいいーーじゃなくて!!なんだよ!?昨日は異端者を贔屓できないとか抜かしてたくせによ!?ってか、これじゃあこいつ、目立っちまうんじゃないか!!?」

一人、乗り突っ込みをするマインに苦笑しつつ、

「それを、道中、君が守るんだよ。だって、君が言い出したんじゃないか、その子と一緒に行くって」
「うっ」
「まあ、外に出てからのお楽しみだよ、マイン。君は、この国の外の光景を知らないからね」

そこまで言って、エーネンはパンパンと手を鳴らし、

「さあ、食事にしよう。そして、食事を終えたら、ニルハガイへ向かってもらおうか」

エーネンに促され、しかしと言うか、やはりと言うか‥‥
豪華すぎる食事はマインの喉をうまく通らなかった。

ーー静かな朝食を終え、マインは兵士からニルハガイ王へ渡す信書を預けられる。

「‥‥じゃあ、任せたよ、マイン」
「‥‥」

わざわざ王であるエーネンが城門まで見送りに来たので、

「んだよ、信用できねーなら、やっぱ自分の部下を行かせりゃいーじゃねーか」

そう捉えてマインが言えば、エーネンは首を横に振り、

「まさか。私は君を信頼しているよ」
「んなわけあるかよ。一国の王が、噂でしか知らない‥‥ましてや悪い方の噂しかないガキのことを信頼してるわけねーだろ。このままとんずらするかもしんねーぜ?」

ニヤリとマインが笑えば、

「まあ、行っておいで。君には良い経験になるよ、きっと」
「‥‥」

やはり真意が読めず、マインは怪訝そうな顔をしながら、ぼーっと立ち尽くす少女の手を取り、エーネンに背を向けて歩き出した。

「‥‥エーネン様。本当によろしいのですか?子供‥‥ましてやあのような賊に大切な言伝てを」

マインと少女が去った後、エーネンに付き添っていた兵士がそう言えば、

「彼だからこそ、きっとうまくいくんだよ。ニルハガイ王は頭がかたいからね。それにーー‥‥」

ククッーーと、喉を鳴らして、

「さあ、私も仕事が山積みだ。戻るぞ」

エーネンは表情をすぐに引き締め、城の中へと戻っていく。
けれど、少しだけ楽しいと言うような余韻が残っていた。

◆◆◆◆◆

ざわざわ‥‥
街の市場を歩く際、当然、人々はざわついた。

なぜなら、毎日毎日、この市場で盗みを働いていたマインが小綺麗な格好をしていて、先日の異端者と歩いているからだ。

人々のざわめきを聞きたくないとマインは俯き、少女の手を引きながら小走りに通り過ぎていく。


「‥‥っはぁぁああああ!!!!!!」

青空の下、広がる大草原でマインは大きく息を吐き出した。

「やっっっっっっっと、息が出来る!くそっ!こんなの、ただの恥晒しじゃねえか!!見たかよ、街の連中のあのキチガイを見るような目!胸糞悪い!好きでこんなん着てるわけじゃねーんだよ!」

そう、マインは少女に言うが、少女はぼんやりとマインを見るだけで。

「‥‥ふう、お前に愚痴っても仕方ないか。そーいや、手紙以外に何が入ってんだろうな?」

そう言って、兵士から渡されたリュックサックの中身を確認してみようとその場に座り込むと、少女も同じように座り込んだ。

中には信書と、二人分の着替え、そしてーー、

「財布だ!」

マインは目を輝かせる。
黒光りした皮の、ずっしりとした財布の中身をわくわくしながら開けると‥‥
マインはすぐに、それを閉じた。

「‥‥え。何これ。なんだ今の紙の束‥‥え?なに?これ、使って‥‥いい‥‥の?」

ぱっとしか見ていないが、大量の札束が入っていたのは確か。
喜ぶどころか、ただただ恐怖でしかない。
マインは財布をリュックの奥底にしまい、地図を広げて、

「とっ‥‥とりあえずさっさと行くか!一週間以内にニルハガイ王に手紙を届けろ、だったな。オレの足だったら二日で着くらしいが‥‥」

マインは少女を見つめ、

「お前と二人だったらどんくらいだろうな?」

そう言う。

なんだかよくわからないことになってしまったが、初めてソードラント国の外に出た。
‥‥出ようと思えば、いつだって出れたが、一人で国の外に出て生きていく自信はなかった。
それにーーもう居なくても、この国には確かに父と母と暮らした、幸せな思い出があったから。

(オルラド国のせいで‥‥オレは‥‥)

くいっと、服の裾が引っ張られ、

「ん?どした?」

マインは少女を見つめる。
なんの感情もない目でこちらを見ているが‥‥

「早く行こうってか?‥‥だな。さっさと終わらせて、それからーー‥‥それから、オレとお前、どうなるんだろうな?」

先のことはわからない。
マインは牢屋行きだろうか?
少女はまた、閉じ込められるのだろうか?

不安もあったが、一週間以内にニルハガイ王の元へ。
小さなこの旅路が、後に世界に影響を与えるだなんて、マインは何も知らなかった。


ー42ー

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