ーー翌日。
早速、教会内の飾り付けを始めた。

カイアは当日の料理をラサと考えている。
一国の王をもてなすのだ、二人の表情は真剣だった。
ラサも短い間だったが、夫の為に料理を毎日作っていたらしく、カイア程ではないが料理の腕はとても良い。

「はぁ。皮肉な話よねぇ。恋敵の為にせっせと結婚式の準備だなんてぇ」

飾り付けをしながら波瑠はヒロに言い、

「まーたそんなこと言う!それよりシハルはちゃんと考えたの!?」
「何をだいヒロさん?」
「波瑠との結婚のこと!」

昨日からしきりにその話題を振ってくるヒロに、シハルは困ったように笑い、

「ねえ、ヒロさん。もしかして‥‥ディンさんから何か聞いた?」

それにヒロはぎくっとするが、

「何を?」
「いや、わからないならいいんだけど‥‥」
「あ、そういえばぁ‥‥主役の二人と、それから私達の分も何かちゃんとした服を買わなくちゃいけないわねぇ」

波瑠が思い付くように言い、話題が逸れてヒロは助かったと思う。

「服かぁ、そうだね。ウェディングドレス‥‥は用意出来ないけど、リーネに何かドレスっぽいのを用意しなきゃな。オレは服のセンスとかサッパリだし‥‥カイアとラサは料理専門だし‥‥飾り付けならオレだけでも出来るし。うーん、シハルと波瑠で行って来てくれる?」

それに波瑠が「そうねぇ‥‥」と言い、次にシハルを見て、

「じゃあシハルさん、そうしましょうか」
「そうだね。皆の服も買ってくるよ」
「ヒロ、あんたも女の子らしい服を着るのよぉ」
「‥‥はは。まあ、この場合は仕方ないか」

ヒロは頷いたが「あ」と、何かを思い出す。

「そういえば、前にディンさんにちょっと洒落た服を貰ったんだ。オレはそれでいいかも」

そう言ったヒロに、

「へえ、ディンさんいつの間に‥‥」
「あらぁ、良かったじゃないヒロ。確かぬいぐるみも貰ってたわね。あんたのこと可愛い妹みたいに思ってくれてるんじゃない?」
「えっ!?そうかな?なんか照れるなぁ」

そんな会話をする波瑠とヒロの側で、ディンの気持ちを知っているシハルは苦笑いしていた。

◆◆◆◆◆

シハルと波留が買い出しに行って、カイアとラサが料理を考えて、異端者の皆は何をするでもなくそれぞれの行動をして、ヒロは飾り付けをせっせとしてーー。

(この結婚式が済んだら、シハルと波瑠のこともちゃんとしなきゃ。いつまでも此処に‥‥私なんかに縛り付けてるわけにもいかない)

そんなことを考えていて、

(私は此処を出るわけにはいかない。異端者の皆のこと、私がちゃんと見守っていかないと。ただ‥‥)

ディンのことを思い浮かべる。

(ディンさんも、異端者。でも、どんな実験かは知らないけど、実験のお陰で彼は人に近い異端者だ。そしてジルク様は多くの異端者の命をたった一人で扱っている。私は、昔と変わらず彼らを助けたい、でも、ジルク様にとって彼らは重荷。世界は‥‥異端者を差別する)

ヒロは眉間に皺を寄せ、思い詰めるような表情をして、

(この世界に神様がもし居るのなら‥‥一体私たちに何を課せたいのだろう)

世界中捜せば、もしかしたらこうしてヒロ達みたいに異端者と暮らしている人間も居るかもしれない。
でも、そんな人達はコソコソと生活しなくてはいけなくて、捜せども、そんな人々はきっと少なくて‥‥

(世間から見ればまるでーー私こそが異端者なんだろうな)

そして、やはり、自分なりに立てた仮説に辿り着く。

(異端者って言うのは、それぞれの価値観。私にとっては異端者を差別する人々こそが異端者に見える。だから‥‥異端者なんて本当は存在しない。誰かが何かを異端だと思えば‥‥それが異端者になる)

それはもう、三年前から考えていた仮説。
ため息を吐いて、首を振り、飾り付けに意識を戻した。

(‥‥今は、ジルク様とリーネの幸せを考えなきゃ)

◆◆◆◆◆

準備も一段落し、シハルと波瑠も買い出しから帰って来た。
カイアとラサも当日に作る料理が決まったようで、

「明日か明後日にはできるかしらぁ?」
「そうだね、ジルク様達に聞いてみないと。なんたって、相手は王様。俺達の生活リズムとは全く別次元だしね」

波瑠とシハルが言い、

「わかった。ディンさんに確認してみるよ」

ヒロが言えば、

「ジルク様に直接聞かないのかい?」

ラサに聞かれ、それにヒロは困ったように笑って頷く。ジルクとは、さっき連絡魔法で全て、話し終えたばかりだから。

◆◆◆◆◆

「ーー‥‥と、言うことなんですが‥‥なるべく早めがいいですよね?明日か明後日か、もちろんジルク様の予定に任せます。オレ達は今のところギルドで仕事の予定も入れてないからいつでも構いませんので」

ヒロはディンに連絡魔法でそう伝えた。
しばらくして、とりあえずジルクに聞いてくるとディンが言う。

『‥‥ジルク様に聞いてきました』
「どっ、どうでした?」
『一週間後で構わないか、と言うことです』

それにヒロは「一週間後ですね!わかりました」と言って頷き、

『くどいですが‥‥本当にいいんですか?ジルク様のこと』
「オレこそくどいですが、ディンさんこそリーネのこといいんですか?」

尋ね返したヒロに、

『はい。彼女が少しの間でも幸せで居れるなら、それ以上のことはありません。それに‥‥僕のリーネに対しての想いは、完全な恋ではなかった‥‥と思います。それでも、たぶん好意はあったけれど、だからこそ彼女の幸せな姿を見ることが出来るなら、僕はどんな結末でも受け入れたい』

それを聞いたヒロは目を丸くして、ディンが何を知っているのかはわからない。
でも、それを問いただすつもりはない。
近い将来、自ずとわかるとディンは言っていたから。

「オレも同じです。束の間でも‥‥ジルク様にも、リーネにも幸せになってほしいーー‥‥ふふ。本当に、ディンさんの中ではリーネが中心ですね」

そう言ってヒロが笑うので、

『なぜです?』
「だって、やっぱりリーネの話をする時のディンさんは、とても感情のこもった話し方をしているから」

そう、雪祭りの時にも言われたことをディンは思い出す。けれどやはり、自分ではわからなかった。

「あ、そうそう。服なんですけどね。主役の二人は勿論、ディンさんの分もシハルと波瑠がさっき買って来てますよー」
『え?そうなんですか?言ってくれたら用意したのに。わざわざすみません。二人にも伝えておきます。でも、人数分‥‥出費が多かったのでは?貴方達のことだから、異端者の彼らの分も用意したんでしょう?』

そうディンに言われ、

「大事な日だからちゃんとしなきゃ、ですからね。オレが言い出しっぺですし」

と、ヒロは笑う。
異端者達は、ラサの赤ん坊を含め十一人。

(サラとカナタが居れば、十三人だった‥‥)

そう、忘れもしない。三年前に喪った二人を思い出した。

「‥‥あ。でも、オレの分は要らなかったから。ディンさんに貰った服があったし」
『えぇ?』
「一度しか着てないし、着る機会もないから勿体無いでしょう?」

それに『でも』と、ディンは言い、

『いや、いいか‥‥』

何か言いたげであったが、ため息を吐くような声を出し、

『ヒロさんは言い出したら聞かない感じだから、何を言っても無駄ですよね』

なんて言われて「え!?」と、ヒロは当然驚く。

『それじゃ、ヒロさん。また一週間後に』
「ちょっ‥‥」

そこまでで、連絡魔法は切れた。

(‥‥さりげなく、酷い言い様されたような気がする)


ー34ー

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