4
ーー翌朝。
ヒロはあまり眠れなかった。
考えていたのは異端者達のこと、そしてジルクのこと。
正直、あんなことがあった後にジルクに再び会うのは気まずい。
(でも、ジルク様に会いに行こう。王様に簡単に会えないけど、これが最後だ。なんとか会って、ちゃんと話をしよう。後悔しない為にも)
そう決意し、支度をして自室を出れば、
「あ!ヒロさん」
すでに起きて朝食の準備を始めていたカイアが慌てるように声を掛けてきた。
「さっきディンさんがサントレイル国に戻ると言って行ってしまったんです。なんか、ジルク様から連絡魔法があったそうで。オルラド国に潜入調査に行ってた人がどうのこうの‥‥」
「潜入調査って、まさかあの依頼か?受けた人が居たのか‥‥」
ヒロは腕を組んで難しい顔をし、
(ジルク様に会うのはしばらく難しいだろうか)
そう考える。
それから、ほとんどの人間がここ近年のオルラド国のことを知らない、本当に民が生活しているのか、実は人間なんて居ませんでした、というオチか‥‥雪祭りの時のディンの話を思い出す。
「そういえば、カイアはオルラド国出身なんだよね?あの国の民達は一体どんな生活をしてるの?」
「うーん。僕の両親が殺されたのは僕がまだ小さい時だし‥‥その後、僕は他国の村の親戚に引き取られたから、最近のあの国の事情はわかりませんね」
そう言い、
「でも、武器だらけの国でした。街中、そこら中に武器が転がっていて。国王は国を統治するよりも様々な武器を製作してばかり‥‥異様な国だった‥‥って言う記憶しかありません」
カイアの言葉を聞き、ヒロは三年前の異様な戦争を思い浮かべた。
もし今回、本当に戦争になったならどうなるのか‥‥と。
「ジルク様のこと、心配ですか?」
カイアに聞かれ「そうだな‥‥」と、ヒロは頷く。
「多分、もし戦争が起きたらしばらくジルク様に会えない。だから今のうちに‥‥会って話して来た方がいいかも。何があったかは知りませんけど‥‥ね?」
そう彼に言われ、ヒロは驚くように目を丸くして、
「ディンさんにも同じこと言われた」
「ふふ」
それにカイアは小さく笑い、
「頑張れヒロさん。ジルク様は王様で、人気あるだろうけど、ヒロさん以上にジルク様を想う人は居ませんよ、きっと!」
そう、肩をぽんと叩かれてーーリーネを思い浮かべた。
ディンが言っていたことが事実なら、リーネとジルクの命は繋がっている。自分の憧れなんてものは、リーネの想いには敵わないだろうけど‥‥
(でも、私も‥‥ジルク様が好きなんだ。友人としても、王様としても、一人の男の子としても。あんなことを言われても、ジルク様を好きだったのは事実だから)
ヒロは目を閉じて思い、
「ありがとうカイア。オレは色んな人に助けられてばかりで‥‥カイアにも昔から迷惑掛けっぱなしで。カイアが異端者達の面倒を見てくれてるから、安心してオレ達はギルドの依頼をこなせるんだ」
「いいえ。助けられたのは僕だから。ヒロさんが僕を変えてくれたから、僕はこうしてここに居るんです。大切な、同士として、友達として、家族として」
カイアは微笑んで言って、そして思う。
(さよなら、僕の淡い初恋。僕なんかじゃ、大きな理想を持って、前へ前へと進んで行くヒロさんの支えになんか、いつまでもなれないから)
◆◆◆◆◆
「え!?あんた、またサントレイル国に行くのぉ!?」
朝食中、波瑠が席から立ち上がって机をバンッ!と叩いた。
「波瑠さん行儀わるいよー」
その隣で、シハルが困ったように笑って、
「そんな問題じゃありませんわシハルさん!!ヒロ!あんた何があったか知らないけどぉ、また帰って来ないつもりなんじゃないのぉ!?」
「大丈夫だよ、今回は。皆に心配掛けない。ジルク様に話すことは全部もう、決めてあるから」
そう、冷静に言ったヒロに、カイア以外はしんーー‥‥と、静まって。
「まさか‥‥告白でもしに行くのかい?」
ラサに言われて「違うよ」と、ヒロは苦笑する。
「もしも戦争が始まるのなら、その前に話がしておきたいんだ、ジルク様に。友として」
「じっ‥‥じゃあ、私も着いて‥‥」
「ごめん波瑠。一人で行かせてほしい。すぐに‥‥かはわからないけど、今日か明日には帰るから。必ず連絡魔法で知らせる」
「うぐぐ‥‥」
納得することが出来ない波瑠に、
「波瑠さん、行かせてあげましょう。ヒロさんなら大丈夫だから」
カイアが言って、
「かっ、カイア!?あんたはそれでいいのぉ!?」
まさかカイアがそう言うとは思わず、波瑠は驚きながら言い、
「ええ。だって僕らは家族なんでしょう?だから、信じてます」
そう、カイアはにっこりと笑った。
「おやおや。潔いね」
その隣でラサが、何か含むように笑って言うので「何がですか」と、カイアは嫌な顔をする。
「帰って来たらちゃんと話すよ。昨日のことも、今日のことも、それから‥‥これからのこと」
「これから?」
ヒロの言葉をシハルが首を傾げで聞き返し、
「うん。これからの。‥‥じゃあ、ごちそうさま!国が慌ただしくなる前に、行ってくるよ」
食べ終えた空の食器をそのままに、ヒロは立ち上がって言って、
「行ってらっしゃい、気を付けて」
カイアが優しく言って、その隣でラサも手を振ってくれている。
波瑠はまだふてくされていて、シハルは一人、何か考えていた。
ヒロはそんな四人と、今まで救って来た異端者達を見て、
(さあ、彼に会いに行こう。私の、これからのために)
そう思い、教会を出た。