ええっと、なんだこの状況。 →警備についてもの申す 薄暗い部屋のベッドの上。 仰向けで寝ている俺の上には覆い被さるようにして奴が乗っかっている。奴とはつまり、ハルモニア陣地にいるはずの俺の良く見知った顔で、無駄にでかい体と落っこちそうな眉毛と万年無表情が特徴の、クソ馬鹿兄貴アルベルトその人である。 「なんで」 「兄が弟に会いに来たらいけないのか。」 こちらが言いたいことを察したらしい兄が、相変わらず何を考えてるのか分からない鉄仮面はそのままに、そうのたまった。 いけないに決まっている。ここはビュッデヒュッケ城の俺にあてがわれた部屋で、つまり敵地なわけで、おまけに寝るのにカーテンをひいてあるので薄暗いが、今は昼だ。何を考えてる。 「移動には魔物の空間移動魔法を使っている。姿はみられていないから安心しろ。それに日暮れ前に戻れれば全く問題ない。」 「そういう問題じゃねェだろッ!」 こちらが問題視している点とは微妙にずれた点を説明する兄に色々と突っ込みどころが多すぎて頭が痛くなってきた。一般常識というものがあるのかすら疑わしい。仮にも敵軍の軍師だ、自分が捕まったらとか思わないのか。俺がここで叫んだらどうするつもりなんだ。 「とりあえずそこ退けよ、話はそれからだ。」 兄は相変わらず俺の上から動いておらず、邪魔なので早く退けてもらいたい。目の前の人物のせいで頭痛のする頭を抑えながらもう片方の手で体を起こそうとする。と、左肩を強く押されて体が再びベッドに沈んだ。衝撃にスプリングが軋む。 「いってぇな…お前さっきから何がしたいんだよ。」 睨みつけると、真っ直ぐに見下ろす、おそろいの緑。 「なにをしたいと思う?」 そういって僅かに口の端を上げた次の瞬間、奴の顔が一気に近づいた。 唇に柔らかい感触。 「!!」 何をされているのか気づいて顔を背けようとすると肩を押さえている手と反対の手で顎を掴まれる。 「んんんーッッ!」 右腕で必死に胸を押すが全く動く気配はない。全身を使って逃げようとしてもこの体格差で上に乗られている状態では悪あがきにしかならなかった。 「…ッ、ん、ふ………はっ」 ようやく解放された時には息があがっていた。唾液が口の端から頬へと伝うのが気持ち悪い。酸欠なのか頭がぼーっとする、ってか舌、舌入れられた!気持ち悪っ!!なにがどうなってる。混乱しているとシャツの中に手が侵入してきた。変な声が出そうになり、とっさにその手を掴む。 「ちょ、なにしてんだッ」 「今からお前を抱く。」 無表情でそうつげられた。 …はっ?今、なんか変な動詞が聞こえた気がする。 「えっ、今なんて」 「今から、お前を抱く。」 どうやら聞き間違えではなかったらしい。抱くとはつまり、さっきの行動からしてハグとかの意味ではなく、性的な意味でだと理解する。唖然としているとこちらのシャツを剥がそうとしてきた。 「えっ、ちょっ、ま、待て待て待て待て!待てって!」 我にかえり、必死に相手の手を押さえつける。 「まだ何かあるのか?」 まるでこちらが我が儘でも言っているような態度だ。 「あるに決まってる!お前、おかしいだろ色々と!」 「何がおかしい?」 問われておかしい点をここで整理してみる俺。一、なんで俺?ニ、俺は男だ。三、その前に俺達は血の繋がった兄弟だ。四、ムカつくことに兄は顔だけはいいので相手に困ったことはない。五、なんで俺?エトセトラエトセトラ… 「俺、お前の弟だよな…?」 「そのはずだ。」 「男の趣味でもあるのか?」 「そんなものはない。」 「なんで俺なんだ。」 「お前が好きだからだが?」 なにか問題があるのかといいたげにこちらを見つめてくる。実の弟に欲情…前々からコイツの頭がどうかしているのは知っていたがまさかこれほどとは。一般常識がないどころの話ではない、頭になにかわいてるんじゃないか。 「一億歩譲ってそれらに目を瞑ったとして、こういうことはまず本人の承諾を得るだろ普通っ!」 「聞いたらお前は快く承諾してくれるのか?」 「するわけねーだろっ!!」 するわけがない、男の、しかも血のつながった実の兄だ。普通に考えてしない。だいたい俺はコイツを好きでもなんでもない。当たり前の話だが恋愛対象としてみたことなど一度としてないし、考えたとしてもこんな性悪変態男はゴメンだ。 「だろうな。だが安心しろ、すぐに承諾したくなるようにしてやる。」 そういってシャツを剥がす作業を再開しようとするので慌てて両腕で阻止しようとする。しかし逆に腕をとられ、片手で頭上に一纏めにされてしまった。身をよじってその拘束から逃れようとするが、びくともしない。 「くっそ離せよ変態眉毛っ!叫ぶぞっ」 「この部屋には魔法障壁を張っておいた、叫んでも助けは来ないぞ。」 そうだ、コイツはそういう奴だった。保険をかけてもいないのに敵の本拠地でこんなことをする奴じゃない。それを思い出し、血の気が退いていく。ヤバい、本気で貞操の危機だ、掘られる。 「あ、アルベルト、」 制止を求める声に耳を貸してくれるわけもなく、シャツを脱がされる。そしてそのままシャツで腕を縛られた。 「…いい子にしていろシーザー、そうすれば痛い思いをしなくて済む。」 低音が吐息と一緒に耳元で響く。同時に耳を舌で舐められ、鳥肌が立った。 首筋から胸へと舌が這う。時折音をたてて肌を強く吸われた。 「ッ…」 チリリと感じる痛みから痕になっているに違いない。舌と共に移動する、俺より一段暗い赤色の髪が肌を擦るこそばゆい感覚と胸を執拗に弄る兄から逃れたくて暴れると息が続かなくなるまで深い口付けを施され、動けなくされる。 「は、ぁ…もうやめ…ろ、て…くそ、変態っ死ねッッ!」 「お前は本当に口が悪い。」 言いながら俺の口の端についた唾液を手で拭う。胸、腹に口づけ、腹を手でさすり、そのまま下肢へと手が移動する。ズボンのベルトが素早く外され手が下着に遠慮なく伸ばされる。絶体絶命。ああ、俺の純潔よ、さようなら。 「君、アルベルトだよね?」 不意に扉の方から聞こえたのは少年の声。否、それは少年の姿をした神官将だった。手を顎の下に添えて、面白そうに尋ねてくる。なんでここに?魔法障壁があるとアルベルトはいっていなかったか。 「…なぜササライ様がこちらに?」 どうやらアルベルトにも予想外だったらしい。ササライは口元に笑みを浮かべたまま楽しそうにつげる。 「ああ、近くを通りがかってね。なんだか不自然な魔力の揺らぎを感じたから来てみたんだ。そしたら君が弟くんに悪戯してるんだもん、びっくりしたよ。」 クスっと笑うその様子にはびっくりした様子は微塵も感じられない。ついでうっすら表れたその顔は、目だけが笑っていなかった。 「君の性癖はどうでもいいんだけどさ、シーザー君はこちらの軍師だ、離してくれるかな?」 思わずみているものをひやりとさせるような笑みで兄をみやる。兄はといえば一拍ののち、悪びれた様子もなく肩をすくめ、 「仕方ありませんね」といい、俺の上から退いた。俺の耳元で次の機会を楽しみにしていろ、と囁いてから。もちろん、次の機会など絶対に作らぬよう細心の注意を払うことを心に固く誓う。 「…ではまたな。」 魔物の作り出した移動魔法陣に入りながらこちらに声をかける。 「二度とくるなっ!」 怒鳴って次の瞬間には兄の姿はかき消えた。 「いやいや、それにしても君のお兄さんにあんな趣味があったなんて驚きだよ。」 「俺も驚き……本当に助かった。」 腕の拘束を解いてもらいシャツを着、着衣の乱れをベッドの上で整えながら礼を言う。実際、本当に危なかった。ササライが来てくれなかったら実の兄に喰われていたに違いない、そう考えると寒気がしてきた。ササライはまさしく天から舞い降りた天使だ。 「礼にはおよばないよ、珍しいものが見れたしね。」 珍しいものとは男が男に襲われる現場のことか?確かに滅多にみられるものじゃないだろう、弟が実の兄に襲われている現場なんて。されたことを思い出しそうになって、顔をしかめる。 「…そういえばあんた、いつからあそこにいたんだ?」 不意に浮かぶ疑問。ササライを発見したとき、扉の前に彼は立っていた。扉が閉まる様子も見られなかったし、もしや… 「え?ああ、縛られてたあたりからかな?」 なん、だと。 こちらの気も知らず、ベッドに腰掛けながら神官将殿は優雅に微笑んだ。 「いやね、もしかしたら君も同意の上の行為かもしれないじゃない?だからちょっと様子を窺ってたんだ。」 「んな、な、なわけねーだろっ!」 そんなこと一目みればわかるだろうに。この目の前の見た目は子供中身はおっさんは、俺がアルベルトに襲われていたのを静観していたのだ。最低だ、趣味が悪すぎる。一度でもコイツが天使に見えた自分が憎い。だいたい、同意がどうのこうのの前に敵の軍師がこんな所にいること自体がおかしい事に気がついて欲しい。未だクスクスと笑うササライから顔を逸らして、今後自分の身は自分で守ろうと心の中で決意するのだった。 ** 自分がすぐに助けに入らなかったと知って、目の前の年若い軍師は憤慨している。その様子に思わず笑いをもらすと同時に首筋の痕が目にはいる。 あんな行為を目の当たりにするとは、正直驚いた。表情を変えないことで有名な彼があれほどに驚き、露骨に不機嫌な顔をしたことにも。わざわざ危険を冒してまで会いに来るところをみると、相当この少年に固執しているらしい。あの男が人に、しかも個人に固執することがあったのかと思うとその人間らしさがなんだかおかしくて、また笑った。 ■――――――――――― 初、エロ寸前とかどうした自分。喚くシーザーとか慌てるシーザーが書きたかっただけなんだけど、なんかもうぐだぐだですね。題名は城の警備穴だらけよねっていう。ちなみにササライもシーザーも私の中ではノーマル。 < |